『集団の力(相乗効果)』 

 うちの子は、名前を呼ばれても、返事をすることも手を上げることもできません。
模倣する事も、集団行動も得意ではありません。
でも私は、集団行動は自閉症の子供にも、プラスになる面があると考えています。

「自閉症児に集団行動をさせて、なんの意味があるでしょう?」と言われた方がいます。
「彼等は人間関係を築くのができないのが『特性』なのだから、個別に対応して生活スキルを身につけたり、構造化された環境で、一人でできる職業スキルを訓練した方がいい。」そのように言われるのです。確かにそれは効果的な方策であり、ぜひ取り入れてほしい事です。
「得意な分野を伸ばす。」ということは成果があがりやすく、理にかなっています。でも、だからといって「集団行動は自閉症児になんの意味も持たない。」と言われてみるとると、これもまたちょっと違うんじゃないかな、と思います。

 集団による『相乗効果』というのがあるそうです。
皆でやる事によって、我慢ができたり、人がやるのを見てつられてできるようになったり、影響される、能力が引き出されるということはあるみたいです。
もちろん、自閉症の子は、他の知的障害の子と同じようには集団に溶込めないし、特異な反応を示し、 一見孤立しているように見えます。でも、何の影響も受けていないということはあり得ないのです。『情報』というのは声かけによる指示だけではありません。皆がやっているのを見たり、周りの雰囲気、人からの働きかけなど、さまざまなところから刺激を受け、情報を得ています。過度の情報は混乱を招きますが、適度な情報はよい刺激となり、成長を促します。

 俊くんは、家ではやりたい放題で、食事中に立ち歩いたりしますし、準備中、座って待つ事はなかなかできません。でも、園では皆に混じって座って食べる事ができます。お友達に好きなオモチャを取り上げられたり、お気に入りのマットの上を占領されたりしても我慢しています。わがままは通りません。(これは、しんどいですが、良い事なのです。)園では俊くんなりに緊張していて、周りに気をつかっているのです。ストレスが溜まって自傷やパニックになったとしたら問題ですが、まわりを意識するということは良い事なのです。彼なりのレベルですが対人関係を学び、社会性を身につける、貴重な勉強の場なのです。親以外の人、家庭以外の環境に慣れさせる、適応できるようにするということは大切な事です。

先日、あるボランティア・グループで牧岡公園へハイキングに行きました。俊くんは家族で出かける時は15分も歩けばすぐ「抱っこ」となります。「俊くんには、ちょっと難しいかな〜」と思いましたが、ボランティアさんと手を繋いで、しっかりと30分くらいは歩いていました。皆が歩いているから、やっぱりついて歩くのです。(集団の力はすごい!)

集団の中であるからこそ身につく事もあるのです。家の中で一人で閉じこもっていては決して社会性などできません。個人としてのスキルは身についても、対人関係は育ちません。本人が極端にいやがったり、特別な理由がない場合は、機会を見つけてはグループの中に入れてあげたいと思っています。

 個別の療育と、集団によるグループ療育、どちらが良いのか・・ という討論がよくなされます。
個人差がありますからどちらがいいとは言い切れません。また、個人のスキルを伸ばすことと、集団に適応できるようになることは両面必要なことです。障害の度合いによって、ストレスが溜まらない程度にバランスよく取り入れるべきだと思います。(ただ、どちらにしても放置することなく、よく関わってあげなければなりません。)
また、自閉症の子は他の知的障害の子と違うのだから分けるべきだ、自閉症の子ばかりを集めて特別なプログラムを組む方がいいと言う人もいます。これも難しいところですが、部分的にはよくても、全ての時間をそのように分けてしまうことには反対です。自閉症の子ばかりでは、グループと言ってもバラバラで集団にならないのではないでしょうか・・(相乗効果もあまり期待できません。)
自閉症の特性に配慮して視覚支援を取り入れたり、スケジュールで見通しを立てたリの工夫はしても、完全に分ける必要はないように思います。ノーマリゼイションは工夫をしながら共に同じ環境で生活できるようになることを目標としています。配慮や支援は行いますが、分離は違うようです。

でも、日本の障害児教育はあまり進んでいるとは言えないみたいですので、難しいことは一杯ですね。柔軟に考えなくてはいけないのでしょう。また、『完全』を求めるのも、親自身がしんどくなるように思います。療育に完璧な道などありません。(効果的な方法というのはあっても、完全な方法はありません。)
どんなに良い話を聞いても、それが自分の子供に合うかどうかは、やってみないとわかりません。人によって話がくい違うこともあります。こちらを立てれば、あちらが立たず・・という事もあります。「合う、合わない」という話は、必ずでてきます。
でも、人間には柔軟性があり、多少の無理がきき、適応力もあります。徐々に慣らせばなんとかなるということもあります。一ケ所に完全を求めるのではなく、家庭を中心に、バランスよく環境を整えてゆけば、それなりに育ててゆけるのでは・・と思ったりもします。
あまり思いつめずに、楽天的に明るく子育てすることも大切なようです。

2002/8/11

【追記】

さまざまな人の意見を聞くことは大切なことです。
『自閉症』は、健常児や他の知的障害児とはまったく違った特質をもっています。よく理解した上で接しなくてはなりません。下記の先生方の御意見も私はよくわかります。

杉山登志郎先生いわく、「統合保育に私が反対なのは、統合と称して障害児を放置している場合が少なくないからである。健常児と混ぜているだけで成長するというのは、とんでもない幻想であろう。きちんとかかわってこそ初めて成長が可能となるのである。」

中根晃先生いわく、「自閉症の治療とは、将来の社会生活が円滑になるよう必要なスキルを習得させ、好ましい生活パターンを身につけさせる努力と言ってよい。このような訓練が通常の学級で可能かどうかはあらためて検討する必要があろう。ともあれ、普通学級で正常の子どもと触れさせることが第一であるという考えはかつての幻想にすぎなかったのではないだろうか。」

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