発達障害に対する複合的アプローチ

“Combination of treatments”

『自閉症』という障害は、本当に難しく、一筋縄にはいかない障害です。
そもそも、障害がなくても子育て自体が容易なものではなく、愛情関係のもとに心を育み、健全な体を育て、人格を築き、社会性を身につけてゆく過程があります。
「人権」という言葉があり、人を人として、人間らしく扱い、人間らしく育て、愛情豊かに人間らしく生きてゆく。健常者であってもいろいろ考えさせられる言葉です。

にもかかわらず、それに増して自閉症の場合、重度の知的障害をともなうこともあり、ノンバーバルで理解力に乏しい子もいて、感覚が過敏で、抱擁することも難しかったり、こだわりが強く、認知システムや機能に違いがあったり、他者を理解し関係性を結ぶことが難しかったり・・・パニックや癇癪、自傷行為や他害行為に発展することさえあります。

成長の過程で二次的に生じた障害もありますが、根本において脳に何らかの障害・異変があるのです。
いまだに、子育ての失敗だとか、関係性に問題があるとか、躾が悪いからだとか、愛情についてとやかく言われたりすることもあります。(もちろん、関係性や関わり方は人の成長や精神状態に大きく影響します。しかし、そこばかりを言うのはどうでしょう・・・)

ベースには脳の機能に問題(器質的な障害)があるんですと言うと、「違います!」と否定し、
「あなたは、お子さんの頭を割って脳みその障害のある部分を見て確認をしたんですか」とまで言い、
「自閉症は治るんです。脳に変わりはありません。私たちは子育てのやり直しをします。」と主張される方もいました。
その施設では、アメリカからの情報は保護者を混乱させる、大学で教わる療育の知識は役に立たないと、閉鎖的・排他的態度をとられました。(本人に向き合う、現場主義は大切なことですが・・)

確かに、20年くらい前、アメリカでも大きく意見が分かれていた時期があります。
従来の心理学に基づいて療育をされるグループや、積極的に行動療法を取り入れて早期集中介入を行うグループ。州によって対応が異なることもありました。保護者の考え方も人によって違っていました。

極端な例でいうと、ノースカロライナ州の「TEACCHプログラム」では、自閉症の包括的な支援プログラムを考案し、自閉症自体を個性として肯定し「自閉症の文化」として受け入れて、環境の側から合わせてゆく工夫がなされています。(自閉症に歩み寄る姿勢)
それに対して、生物医学的(バイオメディカル的)取り組みをされているDAN!という団体は、複合的な要因で生体に異常が生じている、あくまでも病気であり、自閉症は治療できると考えています。頭文字が表す通り、Defeat Autism Now!(今すぐ、自閉症をやっつけろ!というような意味)。個性だと受け止めるのと、やっつけろ!と言うのでは全然違います。
でも私は、今の段階ではどちらも必要なことだと思っています。
治せる部分は治してあげたいし、消えない特性は個性として受け止めてあげなくてはいけないとも考えています。社会環境においても理解していただく必要があります。

外部からは、異端視されることがありますが、
バイオメディカル的取組みをされている医師や保護者の方々は、極めて熱心で真剣であり、すごく勉強されていて、必死で取り組んでおられます。もちろん愛情の深い方々です。今では、オーソモレキュラー(分子整合栄養医学)や分子栄養学に受け継がれていっています。

アメリカ自閉症協会(Autism Society of America, ASA)は、バーナード・リムランド博士によって1965年に創設されました、最も歴史のある大規模な自閉症の草の根運動組織です。
ASAは、自閉症児・者の全てに利益があるような単一のプログラムや治療はないという信念のもとに、保護者の選択権を重視する考え方を推進しています。何が「一番良い」あるいは「最も効果的」であるかに関する選択は、直接関わる人々によって決められるべきである。〜ウィキペディア(Wikipedia)より引用〜

私が悩んでいた20年くらい前のこと、アメリカの自閉症協会のホームページには、“Combination of treatments”という言葉が掲げられていました。自閉症は、原因がまだ確定しておらず、人によって症状が異なるため、画一的な療法はない。アメリカ自閉症協会では、その人にあった「治療の組み合わせ」を大切にしているということです。

日本では、だいぶTEACCHプログラムが浸透していって、今では、視覚支援や構造化は支援学校でもあたりまえ、感覚に配慮して落ち着く場所を用意したり、わかりやすく環境を整える、「絵カード」などコミュニケーションツールを取り入れる、スケジュールによって見通しを立てやすくする(不安をなくす)、などの工夫がどんどん行われています。
いまだに「私、TEACCH嫌いやねん!」といって受け付けない頑固な人もいますが、その点、専門家たちも配慮していて、「なるべく、TEACCH用語は使わないようにしよう」とか、示し合わせて、スペクトラム障害全体に対する理解と配慮ということで、じんわり浸透させてきたという感じです。

昨年、「行動援護」に関する研修を受けてきましたが、そこで使われているテキストは、ほぼ20年前にTEACCHプログラムの研修で教えていた内容と同じでした。

行動療法、ABA(応用行動分析)の方も、「社会性」を身につけるためのスキル獲得の方法として、行動を視覚化、具体的な体験化して、見せてローリングプレイを行う。就労支援などを行うSST(ソーシャルスキルトレーニング)で生かされているように思います。視覚情報は入りやすく、一度やったことはできることだからです。そして褒めて強化します。

日本は、日本の得意とする、細やかな配慮や構造化、ツール作りなどから受け入れて行っているようです。個性を大切にすること、人権を大切にすることは大事ですから。(一番過激でない、無難なところから受け入れている。それでも初め「構造化」には抵抗が強かったのです。)

あと、最後に残されているのが、バイオメディカル的取組み。「分子栄養学」から生命や自然環境にいたる、根本の取り組みですね。これを何とか見届けてゆきたいと思っています。

私は畑をやりながら、ビタミンを飲みながら、「栄養」と「環境」の勉強をしていこうかなと思っています。このことは、生命と栄養(食糧問題)、自然と地球環境の問題、すべてにつながっていくような気がします。発達障害の人たちはその危機を敏感に教えているのです。(そんな気がしてなりません・・)

少し整理してみます。

●大きく見て4つの治療・療育のアプローチがあります

(1)人として育てる。心の療育を行う。
人を人として見て、人として育てる。これが第一。
関係性を重視し、対人関係をベースに、本人主体で本人の気持ちを大切にしていく。信頼関係をもとに心の成長を促す。愛情によって人を育む。発達心理学に基づく支援。音楽療法やアート、園芸療法、読み聞かせ、情操教育など。
東田直樹君などが自閉症の内面の世界を披露。

(2)行動療法的アプローチ(幼児期における早期集中介入など)
応用行動分析(ABA)、カリフォルニア(UCLA)のロバース法、日本では「つみきの会」。
課題を分析し、スモールステップで段階的にスキルアップし、適時プロンプト(お助けヒント)を与え、褒めて強化し行動を定着させる。脳の発達の促進。生活スキルの習得に応用する。
ソーシャルスキル・トレーニング(SST)・・・就労支援に効果的・社会性を身につける。

(3)障害特性に合わせて、環境面からアプローチする。
ノースカロライナのTEACCHプログラム。視覚支援(多くの自閉症者が視覚優位であるため)や物理的構造化(わかりやすく環境を整える)。「絵カード」などコミュニケーションツールを用いる。スケジュール(時間的な見通しを持たせる)。感覚過敏への配慮。問題行動への対応法。ワークシステムや手順書、など。生涯全体にわたる包括的なサポート。

(4)バイオ・メディカル的アプローチ
生物医学的な取り組み。「栄養療法」
サプリメント療法(ビタミンの補給やミネラルのバランス調整)。GFCFダイエット(食物アレルギー対策)。ホルモン療法。デトックス療法。環境汚染による有害物質の除去。腸内環境の改善(有益な菌の補給)、微生物や酵素の働き(自然界との共生関係の確立)。DNAの研究、など。
映画「レインマン」の制作指導を行ったバーナード・リムランド博士が主導。(全米自閉症協会創始者)ご子息が自閉症。DAN!(医師によるサポート)今は、オーソモレキュラーや「分子栄養学」によって受け継がれている。

これは20年前、古い私の頭の中にある分類です。
きっと今では、もっと細分化され発展し、融合されたり内容も深められたり、新しい発見や取り組みがあることでしょう。若い保護者や療育者たちは、どんどん次の「真」に迫る道を進んでいってくださればと思います。

人も自然もつながっていますので、生命の循環と地球環境を大切にするそんな大きな活動に発展し、明るい未来が訪れることを夢見ています。

俊邦父 2019.4.28