Mind・Care・Action

 新しい時代の人々は、新しい療法に対しても目を向けてほしい。広い視野の中から本当に自分の子供にあった療育、必要な治療を選択していただきたいと思います。
メジャーな意見が必ずしも自分の子供に合うとは限りません。考えを固定化することなく(立ち止まることなく)、「良い」ものは「良い」と正直に評価し、自分たちの行っている治療・教育、そして生活の中へと、取り入れて行っていただければと思うのです。

自閉症の療育に関しましては、「暗い時代」が長くつづきました。単なる「心の病」とみなされ、親の育て方が悪いから心を閉ざし、躾ができていないから問題行動がおきるんだと、社会からも冷たい目で見られてきました。今、ようやくその誤解がとけ、 「自閉症が先天的な脳の機能障害なんだ」親のせいではなかったんだ・・・と受け止められるようになってきました。

でも、「暗い時代」は長すぎました。その反動があったせいなのか、今では逆に、自閉症の子供に対する精神的な取組みが毛嫌いされたり、自閉症は先天的な脳の機能障害だから、「治らないんだ」「治らない障害なんだ」と自分たちに言い聞かせるようになり、医者自身が医学的な治療を放棄したり、前向きに行動矯正することが危険な行為ととられたりすることもあります。

「あるがまま」の子供の姿を受け止めることは、素晴らしいことです。そこから、全てが出発すると言っても過言ではありません。でも、子供がいつまでも同じ状態であってはいけないのです。子供というのはどんどん成長してゆくものですし、治せる病気や障害は治してゆくべきなのです。私は「自閉症は治らない」と断定して、「治療」という考えや行為を捨ててしまうのは好きではありません。たとえ脳の障害であっても、遺伝による障害であっても、症状が軽減し、部分的にでも改善してゆくということはありえることなのです。特に、医者や専門家は研究を放棄するべきではありません。

  

 私は、勉強不足であまり正確な情報を提供することができませんが、アメリカではノースカロライナでTEACCHという包括的な自閉症支援システムがあります。自閉症の特性を学び、彼等が生活しやすいような環境をととのえ、生涯にわたる一貫した支援を州の公式プログラムとして提供しています。彼等の症状や生活スタイルがそのまま「自閉症の文化」として尊重されており、治療というより、『人権』を大切にする思想にもとづいた支援活動である、といった感じがします。
素晴らしい支援であり、システムなのですが、あえてそこに苦言を加えるとするならば、心情(精神)的な交流と、「治療」という意識が薄いかなあ・・・と思われます。

一方、ヨーロッパや米カリフォルニアにおきましては、多少のリスクはあり、向き不向きはあるかもしれませんが、『治療』を目的として、自閉症の症状を少しでも軽減し、発達を促す為に、幼児期から積極的に応用行動分析(ABA)を取り入れた療法がもちいられている場所もあります。そして、人によってはその効果も現れており、「これからはABAだ!」とおっしゃられる方も多くいます。

そして、さらに申しあげると、近年、医学や栄養学の分野でも、ビタミンB6 とマグネシュウムが良いといわれたり、自閉症児者の為に調合された栄養剤の補給、DMG や TMG の投与、GFCFダイエット(小麦と乳製品の排除)による食物アレルギーへの対応、DPP4をはじめとする消化酵素の補給、イースト菌を減らすための食事療法、などにより症状の緩和をはかろうとする動きもあります。また、毛髪ミネラル検査や尿検査、血液検査などにより判明した体内に蓄積されている有害物質を排出させる。といった治療法も試みられるようになりました。
先日(2004/3/7)、テレビ(TBS)の報道番組で話題になった「水銀のキレート療法」もその中の一つで、 「自閉症の人は遺伝的に重金属を解毒する機能が弱いのではないか」という仮説が立てられたりしています。主なキレート剤には、ALA、DMSA、DMPSなどが用いられており、中でもALAは血液と脳の関門を通過できると言われていて、脳から直接水銀を排出することができる可能性があります。ただし、使用においては体内におけるキレート剤の濃度の維持や、使用期間、回数など慎重におこなわなければ危険であり、副作用もあります。(中国パセリを使われている方もおられます)

上記に掲げました医学療法の多くは、まだ「仮説」にもとづいた研究段階のものであり、誰にでも薦められるものではありません。しかし、研究に携わる人を異端視したり「トンデモ療法」と烙印を押すべきではないと思います。取り組んでいる人間は真剣なのです。(なんの研究もしない人よりは、ずっと立派です)
そして、ぜひとも研究成果や情報を公開し、親御さん方により多くの選択枝とチャンスを与えてあげてほしいと思います。

欧米にお住まいの熱心な親御さんの中には、 ABAとプラスα、体質改善療法をうまく組み合わせながら、効果をあげておられる方も多いようです。

  

 私は、自閉症の治療・療育に関わる人たちは排他的であってはならない、と思います。
「うちのセンター、うちの病院ではTEACCHをとりいれていますので、ABAや体質改善のことはわかりません。」ではこまるのです。ましてや、自閉症協会が特定の療法や考え方しか受付けないようになったのではいけないと思います。「良い情報」は組織を越えて提供しなくてはならないし、連携しながら、親御さん方が自分の子供にあった治療・教育を自由に選択し、プラスになることをどんどん取り入れてゆけるような環境であって欲しいと思います。
他者を排斥して、閉鎖的に自分達だけのモデルを作るのではなく、良いところを持ち寄って、手を繋ぐべきです。

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 アメリカの自閉症協会を例にあげましょう。HPのインフォメーションの中にあるTreatment and Education Approaches というページを見てみますと、そこには、
1. Behavioral and Communication Approaches(行動矯正とコミュニケーションによるアプローチ)
2. Biomedical and Dietary Approaches(生物医学と栄養学によるアプローチ)
の二つのカテゴリーがあり、その中で

1. Behavioral and Communication Approaches には、ABA(応用行動分析)、TEACCH、PECS(絵・写真によるコミュニケーションシステム)、Sensory Integration(感覚統合療法)などが説明文とともにあげられています。

2. Biomedical and Dietary Approaches には、薬物療法やビタミン・ミネラルの補給、GFCFダイエットなどによる食物アレルギーへの対応、イースト菌やホルモンに関することまで紹介されています。

そして、そのページの冒頭には、「自閉症はスペクトル障害であるから、通常、自閉症を扱うにおいて1つの方法だけが効果的ということはありません。専門家と家族は、『治療の組み合わせ』(combination of treatments)が効果的であるかもしれないということに気づきました。」と記されています。

さらに、3. 補足的なアプローチとして、音楽療法や水泳などのスポーツ、イルカ療法や乗馬、芸術活動などの精神的なアプローチも紹介されています。
また、リンクによって、親が望めば、あらゆる分野の最新情報をえることができ、その中から親たちは自分の子供に合った最適な療法を自由に選択することができます。(州や住んでいる地域によって受ける療育に制約はあるでしょうが、情報に関しては自由です。)

  

 今日、私はタイトルに『Mind・Care・Action』という言葉をもちいました。
これは私の空想なんですが、「日本でも、こんなふうな分野で、十分な情報が与えられ、自由に自分の子供にプラスとなることを選択し、取り入れることができるようになったらいいのになあ〜」と考えて書いてみました。

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Mind】・・・心を育てること

 私の考えは古いのかも知れませんが、自閉症の子供の心を育てることは大切だと思っています。
心と脳とは直結しているからです。
心に良いことは、やはり脳にもいいのではないでしょうか。
音楽療法や、イルカ療法、乗馬など・・・子供の好きなことをさせてみましょう。
「心の病気でもないのになぜ?」と思われる方もおられるでしょうが、体験者の話を聞くと「良かった!」「子供の表情が変わった」「見ている自分までが癒された」と言われたりします。
また、本人が適応できるのならば、ハイキングやキャンプなどのレジャーや遊び、スポーツなども、精神的にすごくプラスになります。体を動かせば発汗し、新陳代謝もよくなり、体質改善にもつながるのではないでしょうか。

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Care】・・・食事療法や生物医学的なケアー 

 メディカルケアーを含むこの分野は、私自身、今まで大きく欠けていた部分だと思います。

 自閉症の子供の血液検査や尿検査、毛髪ミネラル検査をすると、体内におけるミネラルのバランスが良くなかったり、食物アレルギーをおこしていて、ある種の栄養素をうまく分解できなかったり、体質的な問題が見られることもあります。体内に有害物質が蓄積していることもあるそうです。それらのことが自閉症の症状と深くかかわりがあると報告されています。

遺伝や脳の機能の問題なのに、なぜ内科的な治療や、栄養補給、体質改善などが関係するの?
ダイエットで脳の障害が治るの?
と、私もはじめはピンときませんでしたが、検査の数値や、実際の症状の変化がその必要性を示しています。

『水銀』に関することにつきましては、まだ立証されていない「仮説」段階の話しですし、キレーションも体験していない私には良否を答えることはできません。もし行うとするならば、副作用をともなう療法ですので、できれば医者の協力を得ながら慎重に行ってほしいと思います。

今後、さらに医学分野の研究が進み、すこしでも自閉症児・者の生活が楽になり、本来持っていた能力を発揮できるようになることを願っています。(日本の病院や、お医者さんも頑張って取組んでいってください。)

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Action】・・・ 発達を促す為の行動療法、生活モデルの療育、教育的なアプローチ

 TEACCHやABA(応用行動分析)などで培われて来た療育の実践。
ひとり一人の子供の能力や障害のタイプにあわせた療育を行う。(自閉症にはいろんなタイプの子供がいます)子供の適性や家庭の状況にあわせて、早期介入を行い、無理のない行動矯正や、子供の発達を促すような療育を行う。
また、あくまでも自閉症児・者の立場に立ち、彼等自身の生活が楽になるように、『生活モデル』の療育を取り入れることを心掛ける。

 自閉症の子供には能力の差や、いろんなタイプ、向き不向き(相性)があり、どの子に対しても同じプログラムが良いというわけではありません。療育にも幾つかの選択枝があったほうがいいし、自分の子供に合う療法や環境を捜すべきだと思います。

TEACCHでは自閉症の特性を理解し、「視覚支援」をおこない、自閉症児者が生活しやすいように環境を構造化して、包括的な支援を行います。私はTEACCHのシステムは、自閉症の症状があるていど定着した成人の施設や、作業所、就労支援、社会的な支援システムに応用すると、とても効果があるもののように思います。

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 我家におきましては、子供は重度の自閉症で知的障害があり、指示が入らず、着席行為もできませんでしたので、幼児期に本格的なABAを取り入れるのには少々無理があったように思います。我家においては「ゆるやかなTEACCH」と「自然な家庭療育」で、それでよかったと思っています。

あえて言うならば、我家のABAは、「お出かけ」をしていろんな体験をし、さまざまな環境に慣らすことと、「ハイキングや山登り」をする中にあったように思います。
通園施設や学校において人と接することも、たいへん効果がありました。

医療に関しましては、まず薬という物(錠剤・液体・カプセル)を飲むこと自体からハードルがありますので、いろいろ工夫がひつようだなぁ、と感じています。

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 自閉症は近年さらに増加しているらしく、1000人に1人か2人ではなく、300人に1人だとか、100人に1人いるかも知れないと言われたりしています。
範疇も、「三つ組みの症状」が見られる人全体をASD(Autism Spectrum Disorder)と呼ぶようになりました。スペクトラムのどの位置にあるかは人によって違いますし、おそらく原因も一つではなく、遺伝や脳の問題、重金属などの有害物質、環境的な条件、体質や内科的な問題など、さまざまな要因が重なりあって症状を形成しているのでしょう。
私たちは、「自閉症とはこういうものだと」といった既成概念をつくらず、一つ一つの要因が解明され、少しでも子供たちが障害の苦しみから解放されてゆくことを願います。

2004/3/20

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◎ 注意

 上記にあげました、治療・療育方法は、誰もがみんな同じようにできるというものではありません。子供の状態や、家庭の事情を考慮しなくてはなりませんし、整えられた環境や、専門家の協力、医学・栄養学的知識が必要なものもあります。まずは自分たちにできることから始め、あるいは必要と感じられるものから優先順位を決めて取り組んでゆきましょう。

アメリカの自閉症協会が言うように、上手に『治療の組み合わせ』(combination of treatments)を考えてゆきましょう。

アメリカ自閉症協会 HP
http://www.autism-society.org/site/PageServer

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