発達障害に対する栄養療法

~分子栄養学による脳の健康法~

自閉症は脳の障害であると言われています。
決して、親の育て方や、関係性や、愛情の有無によるものではありません。もちろんそれらは人を育てる上で大切なことではあり、2次的に影響して行動障害につながることもあります。しかし、障害の根本にあるものはそういうことではないのです。

脳は他の臓器や部位のように、容易に手術をしたり、移植をしたりできる場所ではありません。人にとって中心的な臓器ですので、ひとかけらも取り除くことはできません。薬を用いるにしても対症療法的なものであり、副作用の心配もあり、本当に効くのかどうかも疑わしいです。今の段階では、決定的な治療効果のある薬は見つかっていません。(私の知る限りにおいては)だから、自閉症は医学的な治療の対象外にされてきました。

私は医者ではないし、医学的な知識もありません。(医療的なアドバイスはできません)
だから、病気を治す「治療」という考え方ではなく、「健康法」として、健康レベルを上げ、脳が元気に働けるように栄養面からサポートしてゆきます。そうしているうちに、(気がつけば)少しでも症状が和らいでゆけばと言うのが親の願いなのです。

脳を健康に保つための方法を、考えてみましょう。

脳は大メシ食らい

皆さんは、自分の脳の目方(重さ)を知っていますか?
成人で、約1kg。体重比で言うと50kgの人なら2%が脳です。機能の重要さからすれば、思ったよりも小さな臓器だなあという印象です。ただ、その小さな臓器である脳が働くために必要な栄養素(消費エネルギー)は、体全体の18%~20%だと言います。体の他の場所に比べれば、10倍の栄養を使っているのです。脳はびっくりするくらいに働いている、と同時に「大メシ食らい」なのです。栄養面で不足があれば、その影響を一番受けるのは脳であり。神経や精神状態にダイレクトに影響を及ぼします。

「栄養」は、普通、食事から摂り、腸によって吸収され、血液によって脳にまで運ばれます。腸に問題がある場合、十分に栄養を吸収することができず。それが、神経伝達物質や脳本体に影響を与え、感覚や知能、精神状態など様々な症状となって現れます。脳と腸は緊密な関係にあるので、『脳腸相関』と呼ばれたりします。
実際のところ、発達障害(自閉症)の人の多くは、腸に問題を抱えています。

子どもが自閉症であることを知った時、インターネットで世界中の情報を検索してみたところ、何故か、脳の障害であるにもかかわらず、腸のトラブルの話しや、食物アレルギーの話し、ダイエットのベージなどが、どんどん出てきて不思議に感じたことを思い出します。でも、今思えばそれは当然のことだったのです。

発達障害の人たちは、脳が栄養不足で十分に発達できず、機能していなかったのかもしれません。
昔、「飢えた脳の子どもたち」と言ったタイトルの本が世界中で話題になりました。
Children with Starving Brains.”ジャックリーン・マクキャンドレスMD
また、映画「レインマン」の演技指導をされた、全米自閉症協会創始者のバーナード・リムランド博士も、自閉症の息子の栄養療法に取り組み、ビタミンB6とマグネシウムを大量に服用させていました。

根本的に、受け継いだDNA自体(遺伝)に問題がある場合は、それはもって生まれたものと言うことになりますが、DNA(設計図)は正しいのに、脳に栄養が足らなかったからうまく発達しなかったんだとしたら、大きな後悔になるのではと思いました。

脳はタンパク質でできている。

脳の主要な部分は、ほとんどタンパク質でできています。あと、細胞膜は脂肪酸が原料です。だから、第一に必要な栄養素は、“良質なタンパク質”です。人は毎日、体重の1/1000のタンパク質が必要だと言われています。
たんぱく質の種類は10万くらいあり、DNAの指示により、20種類のアミノ酸の配列によって決まります。そのうちの9種類は必須アミノ酸と呼ばれ、体内で生成することができません。必要な栄養素が確保できなければ、脳にトラブルが生じます。

たんぱく質をとる時は、必須アミノ酸を必要量含んだ、プロテインスコアの高いものを選びましょう。(卵は、プロテインスコア100の完全食です)
あと、脳の細胞膜には、脂肪酸が必要です。(だから必須脂肪酸と言います)
良質なオメガ3の油(EPADHA)をとりましょう。「魚を食べると、頭が良くなる~♪」なのです。

神経伝達物質の生成にはビタミンが必要

脳は神経組織に属し、脳の信号は、神経伝達物質によって相互に情報伝達をおこなっています。
興奮系の神経伝達物質には、ノルアドレナリン、ドーパミン、アセチルコリン、グルタミン酸などがあり、意欲ややる気をおこす。
抑制系の神経伝達物質は、GABAが有名。心を落ち着かせる。
そして、調整系にはセロトニンなどがあり、感情のバランスをとる。
脳内神経伝達物質の合成には、タンパク質とともに酵素(これもタンパク質)と補酵素(補因子)となる、ビタミンやミネラルが必要です。特に重要になってくるのが、ビタミンB群と鉄(Fe)です。
たとえば、ビタミンB6は、ドーパミンやGABA、セロトニンの合成に不可欠なものです。
ビタミンB群と神経系の働きの関連性をみてみましょう。

  • ビタミンB1の不足・・・・怒りっぽくなる、記憶力が減退、音に敏感になる。

  • ビタミンB2の不足・・・・うつ状態になる

  • ビタミンB6の不足・・・・集中力の低下、暴力を含む異常行動

  • ビタミンB12の不足・・・・知覚障害が起きる

  • ビタミンCの不足・・・・知能の低下

これらのビタミンの吸収には、確率的親和力の違いもあり、「個体差」があります。 人によっては少量で済み、食事から摂取できる人もいれば、10倍以上の量が必要な人もいます。だから、『メガビタミン主義』の人は、必要量が摂取できるようサプリメントを利用するのです。
また、ストレスや糖分の分解、活性酸素の除去などにも栄養素は奪われていきます。
腸に問題のある人は、そもそも十分な栄養素を吸収することができません。
ですから、栄養を摂ると同時に、腸に対する対策も考えなくてはなりません。

腸のトラブル

胃潰瘍や十二指腸潰瘍は、ストレスが原因と長いあいだ言われ続けてきました。対人関係が苦手で思いつめるタイプの人がなりやすいと。しかし、近年になって「ピロリ菌」というものが発見され、なんてことはない、それを駆除したらほとんどの人の潰瘍は治ってしまったのです。(なりやすいということはあっても、それが決定的な原因ではありません。)

「うつ病」もしかり。これも精神的なストレスによるものとばかり考えられていたが、最近では、栄養面での問題が指摘され、鉄とタンパク質を補給したら、8割くらいの「うつ」が改善してゆくという、新しい発見がありました。それまでの定説が、覆されるということはあるものなのです。

さて、自閉症と腸との関係について話を戻しましょう。
近年よく話題にされるのは、「腸内環境」。腸内フローラと呼ばれる微生物叢、菌との関係です。人間の体内には100兆を超える微生物が共存しており、そのほとんどは腸の中にいます。人の感情や性格、精神状態、免疫作用などにも深く係わりがあります。
菌には、善玉菌と悪玉菌と日和見菌があって、それがどちらに傾くかで健康状態が変わるとも言われています。ちなみに、毎日排泄される便の3分の1は菌です。腸内環境を良くするために、プロバイオティクスを服用されている方もいます。

腸内のトラブルについて、いくつか挙げてみたいと思います。

ますは、「カンジダ」(カビの一種)。
風邪などで、抗生物質を服用すると、腸内細菌が殺され、そのあとカンジダ菌が繁殖しやすくなります。カンジダは胃の粘膜を荒し、鉄を奪ってしまう。(鉄不足の原因)

次に、小麦や乳製品に含まれている、「グルテンとカゼイン」。
これが原因となって食物アレルギーを起こし、腸粘膜を荒してしまうことがあります。近年よく耳にする「GFCFダイエット」と言うのはグルテンフリー・カゼインフリーの食品を摂るということです。カゼインとグルテン由来のグリアジンという物質のアミノ酸配列は、モルヒネにそっくりだと言います。その結果、情緒不安定になったり、うつになったり、興奮しやすくなったりします。

3つ目は、「リーキーガット症候群」です。(腸もれ症候群とも言う)
腸の粘膜が炎症をおこし、腸管壁に穴が開き、目の粗いザルのようになって、未消化のタンパク質や有害物質を通したりします。
その対策としては、腸粘膜細胞を元気にする。細胞同士をしっかりと結びつける。タイトジャンクションを形成することが大切。その為に必要な栄養素が、ビタミンDである、といわれるようになってきました。リーキーガットは食物アレルギーなども引き起こします。

二つのタンパク質(オクルディンとクローディン)の組み合わせによる、タイトジャンクションの構造は、体内にもう一カ所あります。それが「血液脳関門」です。ここのガードが緩めば、有害物質が脳にまで侵入してゆく、“リーキーブレイン”状態になる可能性があります。それを防ぐためにも、ビタミンDはしっかりとっておくべきです。ビタミンDはタイトジャンクションの結びつきを強固にする作用があります。

ビタミンDは今、注目の栄養素です

ビタミンDは、コレステロールを原料にして、紫外線の刺激により皮膚で合成されます。主な働きは、カルシウム(骨)の代謝に必要なビタミンであるということ。小腸の粘膜を正常に保ち、脳を保護する。他にも、インスリンの分泌を調整したり、免疫の過剰反応(アレルギー)を抑える作用があったり、精神疾患(うつ病)の予防に役立ったりします。
自閉症児はビタミンDの血中濃度が低いという報告があり、自閉症児にビタミンDを服用させると行動異常が改善されるということもあります。

日光を浴びることによって、皮膚でビタミンDは合成されます。ですから、北欧など、日照時間の短い冬場は、「冬季うつ」になりやすいそうです。また、夜の仕事をされる方々は、体調維持の為、ビタミンDを服用されている方が多いです。 

その他、ビタミンについての覚書き

  • 糖尿病には、インスリンの分泌を調整する、亜鉛とビタミンDが有効。

  • ガンになりたくなかったら、抗酸化作用の強い、ビタミンCEを服用する。(活性酸素に対するスカベンジャー)

  • 脳梗塞が嫌なら「血管ビタミン」と言われるビタミンEを飲むと、血流が良くなる。「冷え症」にも良く効きます。

  • 認知症になりたくなかったら、頭が良くなる、ビタミンCとオメガ3の油、DHAEPAを摂る。

  • アレルギーや腸に問題のある人は、ビタミンDをとること。
    また、腸内環境を良くするために、プロバイオティクスを補給される方もいます。

  • うつ病の人は、糖質を減らし、鉄とタンパク質をとりましょう。

  • 統合失調症(精神症状)の人は、ナイアシン(ビタミンB3)が効果的です。

  • コレステロールは、ビタミンDの原料になるし、性ホルモンの材料にもなります。コレステロールはとても大切なものなのです。

  • 不眠症の人や、やすらぎがほしい人には、ビタミンB群(代謝ビタミン)をとること。ビタミンBはセロトニンを生成する際に必要な補酵素です。
    セロトニンは今注目の脳内神経伝達物質であり、「幸せホルモン」と呼ばれます。セロトニンを増やすことは心の安定につながります。また、セロトニンはメラトニンの基になる物質で、メラトニンは睡眠へと誘導するホルモンです。

他にも、「幸福」つながりで、もう一つ、自閉症の人に効果があると言われている物質に「オキシトシン」というホルモンがあります。
1年ほど前、読売新聞(2018.3.7朝刊)に、自閉スペクトラム症の人に「幸せホルモン」と呼ばれるオキシトシンを使用する記事が載りました。鼻にスプレーするだけで、コミュニケーション能力が改善し、協調性が向上するというのです。5年程度で帝人ファーマから新薬として製品化される予定だそうです。

でも、根本的には「薬」(ホルモン剤の投与も含む)ではなく、栄養素によって、体の内から治してゆきたいものです。(本来の健康を取り戻してゆくということ)
健康になる為の努力を一通りおこない、それでも抑えきれない症状があり、生活に支障が生じるような場合には、薬の服用を考えてみてはどうでしょう。まずは、副作用がなく、「健康レベル」を高めてゆく栄養療法(サプリメント使用)でチャレンジです。

ここまで、超特急でビタミンを始めとするいろんな栄養素についてお話してきました。
ふり返ってみますと、一番大切な栄養の基本となるものは、やはりタンパク質です。
タンパク質の分子構造を見ますと、その中に「N」(窒素)が含まれているというのが特徴です。窒素は生命をつくっていたのです。(タンパク不足=窒素不足)
その窒素は、ある特定の地中細菌が空気中の窒素を固定しているのです。窒素固定細菌(マメ科の根粒菌)が持つニトロゲナーゼという酵素の力によってのみ、三重結合である空気中の窒素を分解し、アンモニア(NH)として固定できます。それが、植物の栄養素となり、生態系を動かしてゆくのです。

また、人間に必要不可欠な鉄分(ミネラル)も、もとを正せば土の中から吸収されてきたものです。
土と微生物は偉大だなと感慨深く思います。

あ、そうそう、言い忘れていましたが、うちの自閉の息子は、プロテイン+ビタミンB50コンプレックス+鉄(Fe)を服用し始めてから、精神的に安定し、穏やかになったので、当初、処方されていた抗精神病薬であるリスパダール(ジェネリックではリスぺリドン)は1ヵ月で必要がなくなりました。
頭が悪いのは今までどおりで、急には良くなりませんが、それは仕方がないこととして。落ち着いてくれただけでも大助かりです。おそらく、これからも私たちは「栄養療法」を続けてゆくだろうと思います。

以上でお話は終わりです。

俊邦父 2019.3.1

※ 上記の内容は、あくまでも著者の私見を含むものであり(人によっては見解が異なることもあります)、人の体には個体差があり、健康は自主管理すべきものなので、ご自身で勉強し納得した上で、自己責任においてご活用いただければと思います。

 参考にさせていただいた、「分子栄養学」とオーソモレキュラーの本のリストです。
    私の説明では言葉足らずのところがあると思いますので、関心のある方はこちらで勉強してください。