「農薬と自閉症」

~自然への回帰が自閉症を癒す~

〇 はじめに

自閉症は、年々その数が増加してきています。遺伝や自然に生じるDNAの突然変異、親子関係や育て方、心理的な要因だけでは到底説明がつかないような急激な変化が見られるのです。
たとえば、急速な地球温暖化・気候変動は自然の現象によるものではなく、人間活動の影響で自然環境に異変が生じていると見た方がつじつまが合います。人が排出したCO₂が原因で急激に気温が上がったのならば、人の努力によって排出量を減らせば気候変動は抑止できます。

人間がもたらした環境破壊は気候変動だけではなく、自然生態系にも影響を及ぼしています。化学物質は人の健康に異変をもたらしているのです。
自閉症の原因を探っていると度々取り沙汰されるのが農薬です。「農薬と自閉症」の関連について、歴史的な経緯をひも解きながら、問題の核心へと迫り、解決の道を模索してゆきたいと考えています。
戦後、急激に増えたものは、取り組み方の方向を転換しポイントを押さえれば、急激に減らすこともできるかもしれません。

生態系は崩れ、地球環境も悪化しつつあります。残された時間は、人(私)にとっても地球にとっても少ないのです。許容不可の臨界点が近づいています。「土と微生物」に関する最新の情報を取り入れながら、プラネタリーヘルスに基づく人々の健康を考えてゆきましょう。

〇 レイチェル・カーソンの伝えたかったこと

「春がきたが、沈黙の春だった。いつもだったら、コマドリ、スグロマネシツグミ、ハト、カケス、ミソサザイの鳴き声で春の夜はあける。そのほかいろんな鳥の鳴き声がひびきわたる。だが、いまはもの音一つしない。野原、森、沼地――みな黙りこくっている」
「でも、敵におそわれたわけでもない。すべては、人間がみずからまねいた禍だったのだ」
これは、1962年レイチェル・カーソンが書いた『沈黙の春』の有名な一節です。

レイチェルは有機塩素系農薬DDTPCBなどの化学物質の危険性を訴え、生涯をかけて闘いました。企業や保守層からは激しく批判されたのですが、本を読んだJ.F.ケネディ大統領の指示により、毒性調査が行われ、その結果製造中止になりました。
レイチェル・カーソンは「The Sense of Wonder」の著者でもあります。
人間は自然の一部であり、自然と共生することによってのみ未来が開けると考えておられました。

J.F.ケネディは翌年、19631122日、テキサス州ダラスでパレード中に暗殺されました。
1歳年下の妹のローズマリーには知的に障がいがありました。そのローズマリーと特に仲の良かったのがJ.F.Kの4歳年下の妹のユニスです。1968年、故ケネディ大統領の妹ユニス・シュライバーは、当時スポーツを楽しむ機会が少なかった知的障害のある人たちにスポーツを通じ社会参加を応援する「スペシャルオリンピックス」を設立しました。障害を持つ子の親にとっては心に留めておくべき人物です。

〇 有機リン系農薬

その後、塩素系農薬に変わって有機リン系の農薬が開発され、主流となってゆきます。
有機リン系農薬は、神経伝達物質アセチルコリンの分解酵素を阻害します。神経毒です。(神経伝達のスイッチが常にONの状態になる)猛毒のサリンも同じ系列です。マラソン、パラチオン、フェニトロチオン(スミチオン)などが多用されています。毒ガス兵器を平和利用(?)しているのだと、学者たちは開発を正当化していました。
発達過程で有機リン系の農薬に暴露すると、子供たちのIQは低下し、ADHDや発達障害を引き起こしやすくなると言われています。

〇 環境ホルモン(外因性内分泌攪乱化学物質)

1996年 シーア・コルボーンによって『奪われし未来』という本が出版され、環境ホルモンのことが話題になりました。
「環境ホルモン」とは、正式には外因性内分泌攪乱化学物質と呼び、環境中に含まれているホルモン攪乱作用を持つ化学物質のことを意味します。

これまで環境ホルモンの影響といえば、オスがメス化するとか、草食系男子が増えてきたとか、男性の精子数が減少して不妊症が増えた、など生殖系への影響ばかりがクローズアップされてきましたが、コルボーン氏は、私たちの子どもの脳神経が化学物質の影響をうけ、思考力、知能レベル、総合的判断力などが低下することこそ社会にとって脅威であることを伝えようとされました。

〇 ネオニコチノイド系農薬

2008年、米ジャーナリスト、ローワン・ジェイコブセンが『蜂はなぜ大量死したか』という本を出しました。2007年の春までに、300億匹、北半球から4分の1のハチが消えました。巣箱に残されたのは女王蜂と蜂蜜のみ。突然働きバチがすべて失踪してコロニーは全滅する。蜂群崩壊症候群(ほうぐんほうかいしょうこうぐん)と呼ばれています。
その後、「ネイチャー」や「サイエンス」などの科学誌でも取り上げられ、ネオニコチノイド系の農薬に曝露したことにより蜂は大量死したのだという結論に至りました。蜂は植物の受粉を媒介するポリネーター(送粉者)ですから、農業にも大打撃を与えました。

ネオニコチノイドやフィプロニルは、浸透性・残効性・神経毒性が高いのが特徴です。水溶性なので、播いた植物の内部に浸透し、成長後もその植物の葉・茎・果実に農薬が残留しているので、害虫がどこをかじっても殺虫効果があり、虫たちは死んでゆきます。浸透性なので、残留した殺虫剤は洗い落とすことはできません。農家は農薬をまく回数が減り楽になるということで、ドローンなどを使って空中散布したりもします。殺虫剤は生き物を殺す殺生剤(バイオサイド)なのです。

〇 農薬と発達障害の相関性

ネオニコチノイドは、神経伝達物質アセチルコリンの受容体、ニコチン性受容体に“偽伝達物質”として過剰な興奮作用をもたらし、毒性を発揮する“神経毒”です。類似した作用を持つフィプロニルは、神経伝達物質GABA系の伝達を阻害します。これらは今、発達障害(自閉症)を引き起こす原因物質として一番疑われているものです。日本と韓国は特に農薬の使用量が多く、棒グラフにして比較すると、発達障害発症の増加と酷似しています。日本の農薬の残留基準は桁違いに高いのです。(規制が緩い)

2012年、アメリカ小児科学会は、「子どもに対する農薬の暴露が、発達障害や脳腫瘍などを引き起こしやすくする。」と言っています。
EUでは、2013年に「ネオニコチノイド系農薬2種とヒトの神経発達障害に関連がある可能性」を認め規制に乗り出しました。

2015年 国際産婦人科連合の公式の見解
「農薬、大気汚染、環境ホルモンなどの有害な環境化学物質の暴露が、流産、胎児の発達異常、がんや自閉症などの発達障害を増加させている。」と警告しています。

現代の環境においては、85000種類以上の化学物質に日々暴露されており、少なくても500以上の化学物質に人体は汚染されていると言われています。避けて通ることはできません。

〇 脳の機能はニューラルネットワークが担う

ヒトの脳は1000億個のニューロンによってできており、そのニューロンがシナプス結合によりネットワーク(神経回路網)を築き機能しています。妊娠の42日目に最初の神経細胞(ニューロン)が作られて、120日後にはその数が1000億個にもなります。毎秒9500個というものすごい勢いでニューロンが作られているのです。
そして、生まれる60日前、ニューロンは互いにコミュニケーションを取り始めます。軸索と呼ばれる神経突起が伸びてニューロン同士が繋がり、シナプスという連結が形成されます。このシナプスによって繋がれたネットワークは生まれて最初の3年間で完成します。

〇 自閉症は「シナプス症」(脳のネットワーク障害)だと言われています

シナプスのつなぎ目は20ナノメートル(5万分の1ミリ)の隙間があり、神経伝達物質(セロトニン・ドーパミン・GABA・アセチルコリンなど)により情報を伝えている。自閉症は遺伝(DNAの異変)によるものだけではなく、妊娠中や幼児期における農薬や化学物質による暴露、環境ホルモンの影響、腸内環境や体内生態系の異変、ディスバイオシスにより発症する(初期のシナプス形成に影響を与えた)という見方も出てきています。

〇 農薬は生き物を殺す薬

『農薬』は主に、虫と草と菌を敵とみなし、それらを殺そうとするものです。それぞれ、殺虫剤、除草剤、殺菌剤と言いますが、どれも「生き物を殺す薬」なのです。
人間は自然の一部であり、環境と繋がっています。生命は循環し、絶妙なバランスの中で存在を保ち、健康を維持しています。共生している仲間が殺されれば、人間にとっても致命的な影響を与えることになるでしょう。特に人と共生関係にある「腸内細菌」は脳との関係が深く。栄養の吸収や脳の発達に影響を与えます。農薬は神経毒であるだけでなく、体内に入れば菌を殺し、体内の生態系を攪乱します。人は生態系によって生かされています。その命の土台が崩れようとしているのです。

〇 恐ろしい「除草剤」

ベトナム戦争の枯葉作戦で使われた2・4-D(モンサント社製造)は、製造過程でダイオキシンが混入し多くの奇形児が生まれました。戦争が終了しその技術は農薬として転用されるようになりました。

<よく使われる除草剤>
環境ホルモン作用が確認されているシマジンは芝用に使われています。
グルホシネートは興奮性神経伝達物質、グルタミン酸とよく似た化学構造を持っていて、ラットに投与すると激しく咬み合うなど攻撃性を増します。
除草剤パラコートは、ミトコンドリア機能障害による毒性が強く、パーキンソン病の原因因子になることが判明しました。

〇 悪名高きモンサント社の「ラウンドアップ」

遺伝子組換作物と組み合わせて開発されたグリホサート(モンサント社、「ラウンドアップ」)は発癌性や発達神経毒性、生殖毒性が疑われています。
マサチューセッツ工科大学のステファニー・セネフ博士は、グリホサートの使用により、産まれてくる子どもの50%が自閉症になる可能性があると警告されています。日本ではいまだにホームセンターの陳列棚にずらりと並んでいるが・・・

モンサントの遺伝子組み換え作物の種は世界シェア9割におよびます。
Natural Societyはモンサント社を人間の健康と環境の両方を脅かすとし、2011年最悪の企業に認定しました。最近では除草剤の中に発がん性物質を含むと訴えられています。
2018.8 モンサントは独バイエルンに買収されました。

〇 ポストハーベストについて

ポストハーベストは、収穫(ハーベスト)された後(ポスト)に、農産物(野菜や果物、穀物)に直接散布する農薬です。輸出する際にカビや害虫で商品価値が低下しないように、通常畑で使われる農薬の100~数百倍の濃度で使用されます。輸入野菜や穀物はあまり信用しない方がいいかもしれません。地産地消が安心でエネルギー効率も良いのです。

〇 戦争によってもたらされたもの

爆弾には多くの窒素を使う。(原料にトリニトロトルエンが含まれる) → 窒素肥料に転用
毒ガス兵器 → 農薬・除草剤(生き物を殺す薬)に姿を変えた。
戦時中、爆薬の原料や毒ガス兵器の科学技術が、平和利用と言う名目で、農薬や化学肥料に転用された。戦争は人から生態系全体へとそのターゲットを変えただけで、まだ終わっていません。

〇 『緑の革命』・・・人口爆発に対応するため、食料の大量生産が必要になった

大型機械による農地の大規模化、農薬と化学肥料の多用、モノカルチャー(単一栽培)、塩化ビニール、過度な品種改良(遺伝子組み換え)により増産しようとした。農業の工業化です。

窒素肥料の不足(窒素は3大栄養素の一つ)
自然界では、マメ科の植物の根粒菌(窒素固定細菌)が出すニトロゲナーゼという酵素によって空気中の窒素を分解し、アンモニア(NH₄)として固定します。この貴重な酵素であるニトロゲナーゼは地球上に数kgしか存在しないと言います。科学者たちはパニックになりました。窒素肥料不足により世界人口の増加に対応できないと思われたのです。

〇 化学肥料の誕生

窒素N₂は3重結合で分解されにくい。(不活性である)そこで現れたのが、「空気からパンを作った男」と称されたドイツの天才学者フリッツ・ハーバー。彼が窒素を固定し、量産化に成功しました。
「ハーバーボッシュ法」:高温・高圧により窒素を固定。(約500℃の高温、数百気圧の圧力が必要)
フリッツ・ハーバーはこの功績によって1919年ノーベル化学賞を受賞しました。

〇 クララ・イマーヴァールの死

その後、ドイツ政府は化学兵器(毒ガス)開発の総責任者としてフリッツ・ハーバーを任命した。彼は「化学兵器の父」とも呼ばれています。
化学兵器が本格的に戦争で使用されるようになったのは第一次世界大戦からで、特にフランス軍とドイツ軍は激しい毒ガス攻防戦を展開。19154月に実戦投入しました。フランス軍の被害は甚大で、中毒者14千人、死者は5千人以上を数えました。
塩素ガス本格投入の翌月にあたる191552日、クララは化学兵器としての毒ガスの使用に抗議して、夫のピストルを持ち出し、自身の胸を撃って自殺しました。享年44歳。

クララは、化学物質の危険性に対し身をもって訴えた最初の人なのかもしれません・・・
毒ガスが農薬につながり、その農薬が自閉症を生むとするならば、クララの悲しみは私たちの悲しみでもあります。

フリッツ・ハーバーの晩年は寂しいものでした。彼はユダヤ人だったため、ナチが政権を握った後は国外追放されました。彼の毒ガス研究を基に開発されたチクロンBは、やがて彼の同胞であるユダヤ人らの絶滅収容所の毒ガスとして使われることになったのです。

「緑の革命」によってもたらされたものは、土地の荒廃と砂漠化。生態系の破壊、生物の多様性の減少、遺伝子操作による生命の危機、化学物質による健康被害(アレルギーや免疫疾患、栄養不良、精神疾患、発達障害)、森林伐採による気球温暖化の加速、などがあります。自然の破壊と人々の健康を奪いました。
あなたの体の中に蓄積している化学物質は、あなた自身には何の影響もないように思われても、あなたの子孫に現れる可能性があります。未来を奪うものです。

〇 有機農業の台頭

日本では、1974年朝日新聞に連載されていた有吉佐和子の『複合汚染』が有名です。その頃から一部の篤農家の手によって、「有機栽培」や「自然農法」など研究が進められていきました。
有機の「機」は仕組みという意味、すなわち“生命の仕組み”が有るということです。有機農業は、自然の営みに沿った農業(生態系農業)を行うということになります。

「有機」という言葉のルーツは、足尾鉱毒事件の田中正造から、弟子の黒沢酉蔵(雪印乳業の創始者)に伝わり、親交のあった一楽照雄が有機農業研究会をつくり広めていったと言われています。「志」ある者の手によって引き継がれてきたのです。

有機農業・・・無農薬・無化学肥料栽培、生物の多様性を維持し自然との共生を目指す。循環型の農業。
自然農法・・・福岡正信、川口由一(自然農)、木村秋則(自然栽培)

〇 生態系農業

「緑の革命」の次に来るべきものは、「緑のノーマライゼイション」だと思います。それは、農業を本来の生態系の働きの中に戻すということです。人間都合によって強制的に歪め、破壊してきた自然を、自然と仲良く「共生」することを目標に、循環型の農業、自然本来の力を引き出す農業に変えるといこと。「普通の農業に戻す」これが今後なすべきこと、向かうべき方向性だと思います。

木村秋則さんは、「自然栽培は生態系栽培です」とおっしゃられました。
川口由一さんが実践する自然農も「自然の営みに添い、生命のめぐりを大切にする」と言います。
生態系農業とはそういった栽培方法で、本質的には同じです。多くの共通点、学ぶべきことがたくさんあります。
そして、「生態系」とは、英語で言うと“eco-system”のこと。本当のエコとは、人が生態系の中で生命の法則にそって生きることを言うのだと気づかされます。“生命の輪”のなかで共生することが大切なのです。

私がやりたい農業は・・・

①「緑」を大切にし、増やしてゆきます。雑草も悪者とせず、共生してゆきます。
このような栽培方法を「草生栽培」(草を生かす栽培)と言いますが、『共生栽培』と呼んでもいい。木々も草花も虫たちも、土の中にいるミミズや微生物たちも、つながりあって一つの輪を作り共生してゆく。

②「土」は生態系の基盤。なるべく耕さない。『不耕起栽培』
土を命あるものとみて、土を痛めつけない。土の中の生き物(微生物)をむやみに殺さない。土の中の微生物を育ててゆく。植物と微生物の共生関係を大切にします。

③「土から出たものは土に返す」という有機栽培の原則を守ってゆく。
つながり合い、循環しながら成長してゆく。自然の循環システムを大切にする。(循環農法)
自然の営みに沿った栽培『生態系栽培』を行うということ。

もちろん言うまでもなく、無農薬・無化学肥料での栽培を目指します。

〇 アグロエコロジーによるSDGsの達成

アグロエコロジーとは、「自然の生態系」に寄り添う農業や社会活動のことを言います。
SDGsSustainable Development Goals)とは、「持続可能な開発目標」のこと。17の目標と169のターゲットがあります。2030年の達成を目指しています。
「家族農業」はSDGsの達成の鍵です。何故なら、世界の農場の90%以上が家族農業で、食料の80%は家族農業が創出しているからです。家族農業は、貧困と飢餓、格差の問題、健康と福祉、陸の豊かさ、気候変動、などに大きな影響を与えています。2019年~2028年は、国連の「家族農業の10年」でもあります。

今までは、切る・掘る・燃やす、で二酸化炭素を排出してきました。
これからは、「植えて(緑を増やし)」「耕さず」「土に還してゆく」で二酸化炭素を地中に固定してゆきます。環境問題はCO₂の排出だけでなく、根源的には地球生態系が破壊されてゆくことが問題なのです。

〇 農的な暮らし

今、望まれているのは、「家族農業」(小規模農業)の自立と地域コミュニティによる自治です。アメリカではCSA(コミュニティ支援型農業)が普及していっています。
日本では「農業+α」(半農半X)で自然に回帰してゆく、「農的な暮らし」を求める若者が増えています。コロナ禍の影響もあり、地方に住みリモートで働く人もいます。どうせ住むのなら自然環境に恵まれた場所がいいですね。私のような「週末ファーマー」や二拠点生活(デュアルライフ)も流行っています。

〇 分離ではなく共生を・・・

自然から分離されるのではなく、自然と共に生きることを目指しましょう。人間は自然の一部であり、自然の循環(生態系)の中で生かされているのです。レイチェル・カーソンには、人間だけが偉く、自然を支配すべきといった傲慢さはなく、人と自然を分離せず、「生かされている」という謙虚な思いがありました。小さな自然、人間以外の生き物に対しても、本当の優しさがありました。それは、生命共同体としての地球を包み込む優しさです。

レイチェル・カーソン
「私たちの住んでいる地球は自分たち人間だけのものではない―この考えから出発する新しい、夢豊かな、創造的な努力には、《自分たちの扱っている相手は、生命あるものなのだ》という認識が終始光り輝いている。」

〇 コルボーン博士の最後の言葉(20141214日歿)

ブループラネット賞を受賞 世界自然保護基金(WWF)の上席研究員・科学顧問
コルボーン博士は、亡くなる1カ月前に「見逃されている人の健康と化石燃料ガスとの関連」を書き、そのなかで最近激増している子どもの自閉症などの発達障害について、 「子どもの脳神経の発達に悪い影響を与える環境ホルモンが、私たち人間の大切な力である"人を愛する力""お互いに楽しむ力""問題を解決するために座って話し合う力""社会性"などをなくさせて、人間を人間たらしめている様々な能力を奪い取ってしまいます。本当に健康で知性がある人間が減少してしまったら、人間らしい社会を維持して世界平和を保つことは不可能なのです」と述べました。

〇 自然への回帰は自閉症を癒す

人間は微生物を含む「生命の集合体」であり、環境とつながり循環する大いなる自然の一部である。だから、人の健康は自然および地球環境と切り離すことはできません。こういった考えから、今は「プラネタリーヘルス」を求める声が上がってきています。
自然の中に生態系という繋がりがあるように、人間にも内なる生態系(腸内フローラ)、微生物とのつながりがあります。土づくりによって野菜が育つように、人間も腸内環境を整えることによって健康を取り戻すことができます。自閉症(発達障害)は、その原因が化学物質の影響や自然との分離によるディスバイオシス(生命の多様性の喪失)によるところが大きいと言われています。

生態系を正常に戻す力を持つのは微生物(細菌)です。微生物は「掃除屋」であり、分解(解毒)をおこない、新たに栄養素を生み出す(土づくりの)能力を持つ、生態系の土台をになう力持ちです。健康な「土」から健康な生命が生まれます。自閉症から人を救いえるのは微生物(菌)だけかもしれません。
人は微生物によって生かされています。人は数百~1000兆個の腸内細菌と共生しており(人の細胞の約10倍)、腸内細菌が持つ遺伝子330万個の影響を受けています(人間の遺伝子の数は22千個しかない)。そして「腸脳相関」、腸内細菌叢から腸、腸から脳へ。多くの信号が送られています。腸内細菌が脳を育てているとも言われるくらいです。

〇 新しい治療方法

人にとっての「土づくり」は、まずは食事からです。できる限り自然に近いものを摂りましょう。栄養療法・バイオメディカル療法・腸活(菌活)・腸内フローラ移植、なども有効に働きます。腸内環境は「多様性とバランス」が重要です。
何よりも大切なのは、自然に近づき、自分の中に自然の循環と多様性をとり戻すことです。そして自然環境の一部として、その中に溶け込んでゆくことです。自然と一体になる神秘な世界を目指しましょう。

最近、注目されている技術の一つに、「次世代シーケンサー」があります。DNAの解析が格段に速くなり、腸内フローラ(細菌叢)の菌の種類やバランスがわかるようになりました。これによって、より的確な栄養療法や腸活、菌移植などによる治療の道が開けました。その貢献は大きいです。
そしてそのデータをもとに、腸内フローラの移植(菌移植)が試みられつつあります。まだ件数は少ないですが、自閉症の患者に移植した場合、何らかの良い変化が見られる寛解率は80%を超えるとも言われています。しかも菌が定着することにより、持続的な改善が見込まれるとのことです。とても希望を感じることのできる治療方法です。

みなさんは毎日、お腹の中で「土づくり」をしているのです。
そのパートナーは腸内細菌です。我々は生命の集合体であり、人間は自然の一部なのです。土づくりの良し悪しによって、成長・発達が決定づけられていきます。健康な土なくして人と地球の健康はありえません。
自分の中に自然をとり戻すことが健康につながるのです。

レイチェル・カーソンの声が聞こえるようです。彼女の願いは人と自然の共生。
彼女の見ることができなかった世界、小さな菌の世界から地球全体の健康(プラネタリーヘルス)に至るまで、生命の星「地球」が、繋がり合いながら一つに輝くことを願います。

俊邦父 2021.12.9


 話題の本

本当は危ない国産食品 ~「食」が「病」を引き起こす~
奥野修司 著  新潮新書
この本は、週刊新潮に連載された「農薬大国ニッポン」の記事を元に加筆された改訂版。農薬工業会の批判にも応えながら、ネオニコチノイド農薬やグリホサート「ラウンドアップ」の毒性などを指摘し、発達障害との関連性を追求されている。

腸と森の「土」を育てる ~微生物が健康にする人と環境~
桐村里紗 著  光文社新書
土は生命の「土台」。人の健康も地球環境も土と微生物(腸内細菌)によって決まる。私たちの成すべきことは「土づくり」、土壌改良と腸活であり、食の選択や土に触れることが大切であると語られます。協生農法などを紹介され、土に根差した「プラネタリーヘルス」を唱えておられます。
私は、桐村先生のご講演にも参加させていただき、共感するところが多く、その方向性やビジョンの大きさに感動いたしました。また、米子の方で畑をされておられるとのことで、とても親しみを感じます。

一般財団法人 腸内フローラ移植臨床研究会
腸内フローラ移植(菌移植)にご関心をお持ちの方は、こちらのホームページをご覧下さい。
自閉症(発達障害)の方への移植の症例報告も掲載されています。シンバイオシス研究所のブログの記事もとても面白いです。