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『森の恵み』

 みなさん、「森の恵み」と聞くと何を思い浮かべられますか?
緑がたくさんあると、空気が澄んでいて、気分が良くなる。森の中にいると、リラクシゼーションの効果があり、心が癒される。紙や材木の原料となり、家具やお家の柱に使われている・・そういったことは知っていますよね。
でも、それだけではありません。自然界は生態系の循環により、すべての生き物がつながりあっています。私達人間は、森によって生かされているのです。

 植物は「光合成」によって、地球温暖化の原因となる二酸化炭素を吸収し、我々が生きてゆくのに必要な酸素を供給してくれます。育ち盛りの森林だと1ヘクタールの広さで、年間20トンほどの酸素が造成され、40〜80人の人間が生きてゆくことができます。
空気だけでなく、水もそうです。森林は「緑のダム」と呼ばれます。山に降った雨水は、森林の作ったふかふかの土にしみ込んでいって、蓄えられ、ゆっくりと土の中を流れて地下水となり、時間をかけながら川へと流れてゆきます。
豊かな森林を抱えた山では、雨が降っても、川はすぐには増水しませんし、水も濁りません。たとえ大雨になっても森が水を蓄え、根が土を守りますから、洪水もおきにくいのです。そして、日照りが続いても、水がゆっくりと流れるので、川は簡単には渇水しません。

 森林の土は、腐植土や生物が作った穴によって、その60%くらいが隙間になっているそうです。スポンジのように水を貯えることができます。雨水をしみ込ませる力は、裸地の3倍、草原の2倍です。森が私達の飲み水を貯えているのです。ですから人が住む町の上流には「水源林」が確保されねばなりません。 日本は梅雨と台風の通り道になっていて、毎年、土砂災害がおこります。でも、本当はそうなる前にほとんどが森林によって守られているのです。実験によると、森林から流れ出る土砂の量を1とすると、作物が育っている畑から流れ出る土砂は約10倍、何も生えていない土地では100〜1000倍くらいの土砂が流れるそうです。
何故そうなるのでしょう? 森に降った雨は、直接土には当らないからです。雨は木の葉や下草にあたった後、雫となってじわじわ地面にしみ込んでゆくからです。そして木の根がしっかりと土を押さえて流れないように守っています。

 森から流れ出た水は、ミネラルを豊富にふくみ栄養分がいっぱいです。水道水よりはるかに美味しいです。(日本の植生は多様でミネラルのバランスが良く、欧米よりもおいしい軟水がいたるところで流れています。)森の水により、微生物が繁殖し、昆虫が増え、それが鳥や魚の餌となります。森の水は川となって田畑を潤し、海へと流れてゆきます、鉄分を多く含む森からの水は、おいしい海苔やワカメなどの海産物を育てます。そして、プランクトンを繁殖させ、たくさんの魚を育てるための餌となります。

 牡蠣の養殖で有名な宮城県の気仙沼湾で実際にあったことですが、牡蠣の収穫が減少した時、河川の背後にある森が収穫に影響していることに気付き、漁民たちは「森は海の恋人」とスローガンをかかげ、 手に手にブナの苗木をもって、山へ植林にいったそうです。牡蠣の海はよみがえりつつあります。私は、この話を聞いてとても感動しました。

ブナは、漢字で書くと木へんに無と書き、「何もない木」「木でない木」という意味をもっています。かつて、ブナの木は落葉広葉樹で建築用の材木に使うには曲がりくねっていて役に立たないということで重視されませんでした。しかし、たいへん保水力が強い木で「緑のダム」となって自然界を守っています。欧米ではブナは“Queen of the Forest”「森の女王」と呼ばれ、自然保護のシンボルとなっています。ユネスコの世界遺産の日本第一号は白神山地のブナ林です。
何も語らず、ただ突っ立っているように見えるブナの木ですが、風にそよぎ、木漏れ日を煌めかせながら、多くの生命を育んでいるのです。

どうですか、みなさん。「森の恵み」を感じましたか?
森は、じょうずに人が手を加え、保護することにより、健全な「明るい森」が育ちます。「地拵え」をして「植樹」し、苗木の成長を妨げるササなどの「下刈り」をおこない、木にからみつく「つる」をはらいます。「間伐」や「枝打ち」を行って太陽の光を取り込み、良木が育ちやすくなるようにします。また、単一種の植林ばかりではなく、なるべく天然の木を大切にし混交林へと導きます。そして多様な動植物が共存できるような環境を整えるのです。
森を生かすことにより、必ずその恩恵が私たち人間、子孫の上にももたらされることでしょう。

2003.8.22

森に関する詳しい情報は・・・

C・Wニコルさんの「アファンの森」
http://www.afan.or.jp/

矢部三雄さんの「森の力」 講談社+α親書

などをお読み下さい。私の文書では、あまりにも頼りないものですが、
森への感謝の気持ちから書かせて頂きました。


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