育てにくさの向こう側にあるもの

~自閉症の真実とプラネタリーヘルス(人と地球の健康)~

○ 親だからこそわかること

私は、自閉症の子を持つ親である。子育ての最中は無我夢中で、日々を過ごすことが必死だった。ふりかえってみて、親だからこそ確信を持って言えることが一つだけある。それは、この子は産まれてきたときにはすでに、育てることが極めて難しい「育てにくい子」であったということである。感覚面においても、認知力においても、関係性を築くためのコミュニケーションの力も、情緒的な発達も。過敏であるがゆえに抱くことも難しいし、視線も定まらず、奇声を上げたり、走り回ったり、パニックになったり、自傷したり、食事は極端に偏食であったし、奇妙なこだわりがあった。

虐待や放置などは一切ない。そこら辺の心理士や支援員、医師などよりも、親であるがゆえにはるかに愛情をもって子育てしている。関係性も千倍深いと思う。それでも難しい。

発達心理を専門とする人は、すぐに関係性や接し方を注意される。
基本的な信頼関係が築けていないから、情緒が不安定で、問題行動を起こすという。要するに親が原因だと思っている。(二次的に生じた問題行動には、育て方も影響するかもしれないが・・)
でも、もう一度言っておきたい。関係性をとやかく言う前に、すでに「育てにくさ」があったのである。なぜそのような症状が現れたのか、根本的なことに目を向けようとせず、結果から心理的な側面ばかりを推察するのはいかがなものかと思う。心理的な、関係性の話しは、人を引き込む「魔力」のような力があって、全てをその煙(理屈)の中でうやむやにしてしまう。

しかし、一部の親はジャンルにとらわれることなく(垣根を持たず)、ありとあらゆるものを勉強している。
では、育てにくさの向こう側にあるものを探す旅に出かけよう。

〇 子宮という名の小宇宙

人はどのようにして生まれてくるのだろう。

お父さんお母さんが出会い、恋に落ち、愛し合って、精子と卵子が引っ付き、受精卵ができる。全てはこの一つの細胞から始まっている。恐ろしいスピードと正確さで分裂を繰り返し、人体を形成していく

「子宮」という小宇宙に、生命が宿り、どのように育ち増え広がってゆくのだろう
一つの新しい命、たった1個の受精卵が子宮内に着床し、細胞分裂を開始する。人の体を形づくるのだが初めにできる臓器は脳ではない、腸の方が先だ。腸は“第一の脳”だと言える。腸管にはびっしりと網目のように神経細胞が張り巡らされており、脳の原形となる働きをしている。脳は腸から派生してできている。(腸が脳の親であるということ)

あえて、脳に焦点を当ててみるならば、最初のニューロン(神経細胞)が誕生するのは42日後、それから120日間(約4か月)爆発的にニューロンは増え1000億個に到達する。それが脳である。その分裂のスピードは恐ろしく速く、単純に計算しても1秒間に9500個という速さだ。しかも、そのニューロンには一つ一つ核があり、その中にはDNAがあって人としての情報(遺伝子)が組み込まれている。DNAの情報量は30億ビット。それが正確無比にコピーされてゆく。そのような奇跡的な成長のもと脳は完成してゆく。自然界では当たり前のように行われているが、実際には奇跡の連続で成り立っている。

脳が働くためには細胞ができておしまいではない。誕生して3歳に至るまでの間、ニューロンは軸索と樹状突起を伸ばし他のニューロンとコミュニケーションをとる。1本のニューロンが数百から数万本の枝を伸ばし網の目のごとくシナプス結合してゆく。ニューロンのつなぎ目のことをシナプスと呼び、神経伝達物質によって情報が行き交う。脳はネットワークによって機能する。ニューラルネットワークは3歳くらいでほぼ完成する。

脳の働きに異常がある場合は、多くはこのネットワークがうまくつながらないからである。また逆に、つながりすぎて偏りが生じる(脳の機能の一部だけが秀でている)のは、不必要なシナプスが刈り込まれていないからである。このような取捨選択が3歳くらいまでに行われ、バランスの取れた機能的な脳へと成長するのである。

神経細胞は非常にデリケートであり、ホルモンのバランスや内分泌、神経伝達物質や微生物の出す代謝物、必須栄養素の影響を受ける。また、人工的な化学物質に対しても敏感である。特に人間らしさを醸し出す高次脳機能は影響を受けやすい。農薬や有害化学物質(環境ホルモン)により発達障害が起こる可能性があるのはこのためである。

農薬は臍帯血からも検出されている。最近の浸透系農薬や環境ホルモンは胎盤をやすやすと通過する。赤ちゃんは産まれた時から汚染された状態で誕生する。そして、生まれ出たばかりの赤ちゃんが遭遇する環境においても、生態系の攪乱により多様性の欠如した世界に飛び出してゆくのだ。

〇 母親からの命のプレゼント

出産の時、痛みに耐えながら産道を通り抜け、膣を通過して赤ちゃんは産まれてくる。
その時、お母さんから菌を1セット譲り受ける。膣にはたくさんの菌が付着しており、それは腸内細菌に近いものである。それを譲り受けることにより腸内細菌の“原型”ができる。(菌の相続、生態系の相続)
そして、母親はいきんで、必ずと言っていいほど便をいっしょに出す。(最近は出し切ってから出産に臨むようだが・・)赤ちゃんは、パクパクと便を食べながら生まれてくる。「オギャア」と言った赤ちゃんが、最初に口に含むのはウンコである。(菌をとり込んでいる)赤ちゃんはあえてお尻の穴の方に顔を向けて回転しながら(ひねりを加えながら)出てくる。そして用意されていた産湯の中につけられる。要するに「ウンコ風呂」である。全身に菌が付着し、吸収されてゆく。これが赤ちゃんの腸内細菌となってゆく。
菌は病原菌(バイ菌)ばかりではない。必要なものの方が多い。(何億年と共生してきている友である)消毒のし過ぎは逆に良くないのだ。

人の細胞は37兆個だという。しかしその10倍くらい、100兆から1000兆くらいの細菌を人は有している。人は菌と共生する「生命の集合体」なのだ。人は産まれた時から一人ではない。出産と同時に、赤ちゃんは菌だらけの自然界に、生態系(生命のつながり)の中に飛び出してゆく。そして免疫を獲得し、自分の中にも生態系を有するようになる。(それまでは胎内でほぼ無菌状態)
人は「生命の集合体」となり、自然の一部として、共生の道を歩むようになる。
これは何億年と続いてきた、生命の歴史の中で築かれてきた、生命が生命であるための原則(生態のあるべきかたち)なのである。多様性と共生、循環は生命にかかわることなのである。多くの生命と共にある。バランスの取れた状態が「健康」なのである。

〇 偏食と自閉症

自閉症の人は偏食が多いと言う。
多様性の乏しい世界に生まれてきて、腸内細菌が偏っているのだから、微生物が行う「分解」という働きや分泌物、生態系の恩恵を受けることはできない。食の嗜好は腸内細菌が決めるともいう。だから、腸内細菌が偏る(多様性が低い)と偏食やアレルギー、栄養不良、発達に異常が生じるのは当たり前と言ってもいい。(人は菌の世界に生まれてきて、菌に依存している)

赤ちゃんは難しい状態で産まれてくる。育て方以前の問題である。
そのような中でシナプス形成を行い、ニューラルネットワークを築いて行く。3歳くらいまでに脳のネットワーク、微生物とのネットワーク、人を含む外の世界とのネットワークの基礎が出来上がる。
脳はネットワークで機能する。そのつなぎ目であるシナプスは環境ホルモンなどの化学物質の影響を受けやすい。ニューロンの電気信号は神経伝達物質によって受け渡される。連結に支障が出れば症状として表れる。自閉症が「シナプス症」だと言われる所以である。

現在、ヒトのゲノム解析はかなり進んでおり、自閉症関連遺伝子は1000個以上あり、中でも「コア遺伝子」と呼ばれる関連の深いものが100~200ある。そのほとんど8割くらいがシナプスに関連するものだそうだ。
これを改善するためには、シナプス結合やネットワーク形成に悪影響をきたす要素(条件)を排除してゆくことが必要である。有害化学物質を除去し、抗生物質を控え、多様性を回復させ、内外の生態系を正常化する。つまり自分の中に「自然」を取り込み、「自然」に近づけてゆくということです。ヒポクラテス大先生が言われるように、「人は自然から遠ざかるほど、病気に近づく」の通りです。

○ 何から始めてゆけばいいのか

「多様性」が欠如している。彼自身の中の・・・
だから、こだわりが強く、柔軟性・適応力(変化に弱い)・他者理解・免疫力(耐性)が乏しい。人の気持ちや性格、人格や個性も腸内細菌の影響を受ける。神経伝達物質のほとんどが、腸内細菌によって腸で作られている。脳は腸から派生してできたものだから当たり前のことである。
私は、人を一人として見ていない。1000兆個の生き物との集合体として見ている。そこには生態系があり、ネットワークがある。その多様性とバランスが崩れれば集合体としての人間にも問題が生じる。

変えられるものは、まずは食事だろう。
” You are what you eat.” (あなたは、あなたが食べた物でできている)
「栄養」こそ、本当の薬になる。ヒポクラテス先生も「食事を薬とせよ」とおっしゃっている。
より自然に近い、多種類の有機野菜をたくさん摂る。野菜とともに土壌菌を取り込む。農薬や化学物質にまみれた野菜ではダメだ。生きた土からの恵みを受けられない。
例えば、お寺で精進料理を食べていると、心が穏やかになりアトピーも治るという。食物繊維によって腸内細菌が喜び、たくさんセロトニン(幸せホルモン)を産生するからである。
不自然なものばかり食べていたら、不自然な人間になる。単純に言えばそういうことなのだろう。

そして生命体の基本素材であるタンパク質をしっかりととる。DNA(遺伝子)が要求する材料を揃える。ビタミン&ミネラルも必要。(←不足ならばサプリで)分子栄養学やオーソモレキュラー療法を参考にしよう。人の体は常に入れ替わっている。(動的平衡)

栄養は「腸」からやってくるので、腸活(菌活)は大事。多種類の発酵食品を食べる。SBO(土壌菌サプリ)を試す。腸内環境を整える。そして、可能であるならば、食事療法(栄養療法)と並行して「菌移植」を行う。(これが一番の近道かもしれない)菌の生着率が格段に高い。体内の菌の多様性を高め、バランスを調整する。
菌移植は「種(たね)」をまくことであり、この種(菌)を食事によって大切に育ててゆく。そして最適なバランスへと近づけてゆく。

そして次は、生活環境や活動内容(スタイル)を変える。環境と「生き方」を変えてゆくということ。
なるべく自然の中で「土」に触れる生活をする。自然農法の畑で土にまみれる。自然に囲まれた森の中へ行く。手袋や虫よけスプレー、殺菌消毒剤による手洗いも必要ない(水洗いだけで充分)。命をそぎ落とすような行為はなるべく避ける。できれば素手で土に触れる、裸足で土の上を歩くのもいい。落葉の中に埋もれるのもいいし、土の上でゴロゴロするのもいい。泥んこ遊びは最高の遊びである。昔はよく泥団子を作って、爪の間は真っ黒にしていて、それをチュウチュウなめていた。

「森のようちえん」の取り組みは素晴らしい。森の中で遊んでいた。自然にふれて、自然を取り込み自然と一体になる。それだけで、生命力の強い、主体性のある子に育つ。

菌をとり込むこと、菌にまみれること ⇒ 「土」にまみれること
1gの土には、100億~1000億個、6000~5万種ほどの細菌が暮らしている。
自然をとり込んでゆく。自然と一つになる。生態系の中に溶け込んでいく。そうすることによって、たくさんの生命力、免疫、DNAの働きを自分のものにすることができる。体内ネットワークが活性化(強化)され、自然界のネットワークにも連結されてゆく。
→ それらが全て、人の健康や発達に影響を与える。

自然のものを食べ、自然の中で遊び、自然の畑で野菜を育てよう。そうすれば、人としての多様性も高まり、対人関係、柔軟性、適応力、免疫力、コミュニケーション能力なども向上する。

「身土不二」、土と体は一体のもの。土と心も一つになる。私たちは土によって生かされている。
土は生きている。土の中には無限に広がる生き物たちのつながりがある。汗を流し、土にまみれて耕してきた畑は忘れがたい。
自閉症の治療は⇒食事療法+腸活(菌移植)+自然との共生

○ 子育てについて

基本は、「自然」にゆだねて、“ほっとらかし”でいい。細々と干渉しすぎない方がいい。都会の箱の中では息が詰まる。(個人的な意見ですが・・)子供たちは自然の中で主体的に遊んで成長してゆく。決して自然から隔離して、不自然な状態においてはならない。主体的な力(自然の力)を信じて見守ってゆく。
人は「種(たね)」のようなもの。必要なものは全て自体内にあり、自然の中で生かされ、調和するようにできている。

「ほっとらかし」と言ってしまうと、聞こえが悪いですが、自然にまかせるべきところは自然に任せる、という意味です(育児放棄ではありません)。自分一人で子育てしているのではなく、自然と一体となって子育てしているお考え下さい。

さあ、山へ行き、野原に生き、海や川に生き、自分の中に自然を取り込んでゆこう。空気、水、土、菌、生命を取り込んでゆき、自然と一体となることが大切であり、それが健康に繋がります。
海水にも菌がいっぱい。原始の海=生命のスープ。(1滴の海水には数万の菌が含まれている)海水浴に行って、多少飲んだり、目に入ったりしても何の問題もない。逆に塩素の入った水道水で洗いすぎ、消毒することの方が怖い。
ほとんどの菌は、何億年と共に生きてきた仲間である。いることの方が健全であり、いなくなったら病気になる。穏やかな精神を保てなくなる。(菌はメンタルに影響する)

今、「清潔という病」(衛生仮説)が問題になっている。人間というのは多様な生き物の集合体。自然である人間を、「清潔」という不自然な状態におけば、病気になるのは当然のことである。
イノシシは蒐場(ぬたば)で転げまわり、馬も砂浴びをして土で健康を保っている。土にまみれるということは、汚いことではなく綺麗で健康的なことなのである。

自然界では、動物に「食糞(便)」行為がある。体調が悪くなると、お母さんのウンコや仲間のウンコを食べるのである。(お尻をなめる)そうやって本能的に菌を取り込み、バランスをとっている。菌は、一番の薬であり、食糞は治療行為なのである。人間においても、健康な人の便を体内に入れることは何の不思議もない。

○ お腹の中の土づくり

野菜の成長は土づくりによって決まる。
人の成長や発達も、体内の土づくりによって左右される。特に、土の中に含まれる微生物、細菌との共生関係が重要である。
みなさんは、毎日、お腹の中で土づくりをしているのです。(お腹に堆肥工場があると言ってもいい)そのパートナーは腸内細菌です。我々は生命の集合体であり、人間は自然の一部なのです。土づくりの良し悪しによって、成長・発達が決定づけられていきます。人間は腸の中での土づくりを通して自然の営みとダイレクトに繋がっています。

あなたにとって一番身近な自然環境(生態系)とは何ですか?
それは、あなたのお腹の中にある「腸内環境」です。そこでは、今現在も環境破壊が進行中です。
私たちは不自然な化学物質に囲まれ、毎日、有害化学物質を口にしています。除菌・殺菌は当たり前、菌を殺す抗生物質も多用されています。共生する生き物は殺されてゆき、絶滅危惧種(の菌)が多数いることでしょう。あなたの中の多様性はどんどん失われてゆきます。アレルギーや偏食が増え、こだわりが増し、適応力や柔軟性が失われてゆきます。脳を育てる菌が失われてゆくのですから、知能も低下してゆきます。菌のネットワークによる想像力や直感力も減少します。

化学物質(農薬・環境ホルモン)は、臍帯血からも検出され、胎盤もやすやすと通過してゆきます。
あなたは今大丈夫であっても、あなたのお子さんはあなた以上に不妊症になる確率は高く、精子はヨレヨレです。あなたの孫はアトピーや自閉症になる確率がさらに高くなるでしょう。未来のことを考えるなら、動き出すのは今です。

多様性が乏しく偏食が多い人は、人見知りをよくする。性格にも偏りが生じる。頑固でこだわりが強く、自己中心(一方的)であることが多い。柔軟さや適応力に欠け、他者に対する配慮などが乏しい。
「他者理解」の為には、自体内に多様性が必要なのである。自分の中にないものを理解することは難しい。人の中に認め、呼応することはできない。感応度を高める為にも多様性が必要である。穏やかである為にはバランスが取れていなくてはいけない。
多様性の中で適応し、調和を図るために神経が発達し、ネットワークを築き、脳ができた。

〇 腸内細菌が脳を育てる

豊かな腸内フローラ ⇒ 脳を育て、自閉症を癒す。健康を保つ。
「菌が脳を育てる」と言うと大袈裟に聞こえるが、あながち嘘だとも言い切れない。
まず、腸内細菌の遺伝子の数は人間の遺伝子の数百倍あり、保有している情報量や機能は腸内細菌の方が断然多い。(人間はミジンコの遺伝子よりも少ない)

関西にある、一般財団法人 腸内フローラ移植臨床研究会で行われている便微生物移植(菌移植)は、浣腸のような手法で、健康でバランスのいい菌を持つ人(ドナー)の菌液を、3~6回に分けて大腸に注入し(週に1回、徐々に濃度を上げてゆく)生着させてゆくことにより、患者さんの腸内環境を整えてゆく。次世代シーケンサーを使って、菌の多様性やバランスを検証してゆく。

移植を受けた人が共通して言うことは、まず・・・
① 視線が変わった。(ゲーズファインダーでも実証されている)
  相手の目をよく見るようになった。視線が合う。顔つきが変わった。
② コミュニケーションがとりやすくなった。
  意図が伝わるようになった。気持ちが伝わる。意味を理解してくれる。反応が機敏になる。
③ 成長の角度が変わった。
  今まで成長しているのかどうかわからないほど横・横の変化だったのが、急に成長の角度が上向きに変わった。
④ 免疫が改善され、健康になった。
  健康な(理想的なバナナ型のウンチ)ウンチが出るようになり、体調がいい。
⑤ 食生活が変わった。
  偏食がなくなり、何でも食べるようになった。腸内細菌が喜んでいる。

だから、「菌が脳を育てる」と言うのは、まんざら嘘ではない。

菌移植を受けたASDの患者さん(9歳)のお父さん。
「今まで、成長しているのかいないのかわからないほど、横・横の発達だったのが、移植を受けて急にその成長の角度が変わった。(上向きになった)」と言われています。

菌移植による自閉症の寛解率は80%を超える。(医師や保護者の主観がまじってのことだとは思いますが・・・)一過性の変化ではなく、菌が定着し、持続的に改善してゆく。完全には治らないにしても、いくぶんか症状は減少し、何らかの改善がみられるとのことです。
菌移植は菌の生着率が高いので、確実に腸内細菌の多様性は高まる。後は食事療法によって菌を大切に育てバランスを整えることである。移植の効果・成果は長期的に見なければ、本当の変化はわからない。冷静になって、1年後ふりかえってみて検証すればいい。

〇 菌のネットワーク

微生物の世界にはネットワークがある。
山に行くと、森があり、そこにはたくさんの植物、木々が生い茂っている。植物には根があり、毛根の先にはさらに菌根と呼ばれる菌の菌糸が張り巡らされている。植物と菌は物質(栄養)と情報のやり取りをおこない。そして山全体を菌のネットワークで覆いつくしている。菌は木々と共生しながら、森を守り、森を育てている。マザーツリー(母樹)は菌根ネットワークを通じて幼樹に栄養を与え育てている。

情報のネットワークにおいて、菌のネットワークはグローバルレベルである。
例えば、「飛行機に乗って海外の空港に降り立つ時、すでに腸内細菌はその地の菌(風土)に適応する準備を整えている」という話がある。嘘かホントか?
まだ十分に解明されてはいないが、菌のコミュニケーション能力は地球を突き抜けるほどのものらしい。

微生物がもつ情報ネットワークはすごい。日本では昔から「虫の知らせ」という言葉がある。
昔の人は細菌のことを「虫」と呼んでいた。(顕微鏡もない時代なので、目には見えないが何か生き物がいると感じていたのだろう)虫が好かんとか、虫の居所が悪いとか・・・

腸と脳は繋がっていて、菌と神経のネットワークによって多くの情報がもたらされています。そして成長に必要な栄養素や伝達物質も届けられます。菌によって脳と人は育まれているのです。
メンタルに関係する人間の神経伝達物質の9割は腸内細菌が産生していると言います。

極論をいえば、脳のネットワークは微生物(菌)のネットワークにつながっているし、菌のネットワークは地球上すべての自然とつながっている。だから人間は自然の一部であり、地球と一体であり、地球の健康なしに人の健康はありえないのである。このようにして「プラネタリーヘルス」というという考え方が成立します。
小さな事象や場面にとらわれていたら(複雑で)見失ってしまうが、大きく物事を見て本質を考えたならそういうことになる。一時的でなく、根本から解決しようと思うなら、「地球」レベルで対処しないと未来はない。

〇 好奇心

多様性が増し、ネットワークがつながればつながるほど、意欲が増し、好奇心が高まってゆく。より主体的になり、自分から学び、行動するようになってくる。(あえて教える必要はない)
菌と仲良くすることは、物質的な恩恵を受けるだけでなく、精神面においてもメリットがある。

意欲は「進化」を後押しする。進化はこのようにして進んでゆく。元々、脳は腸から派生してできたもの。
「土」(=自然)との連続性、ネットワークの窓口は腸にある。人は、腸を通じて自然生態系とつながっている。

腸内細菌の多様性 → 菌のネットワークの力 → 情報量の増大 → 好奇心 → 主体性(自分で学んでゆく、発見する、気付く、ひらめき)

菌移植を行うと、菌のネットワークに接続されるから、好奇心が高まり、主体的になる。(意欲的になる)子供は「好奇心の塊」。子育ては、基本“ほっとらかし”でよい。方向づけ(人としての道理)だけ間違えなければ、後は自力で学んでゆく。安全だけ確保しておこう。
好奇心が強くなると、生き生きとしてくる、意欲的で変化に強くなる。前向きで、試練にあってもへこたれない。自分から自発的に成長してゆく。菌も冒険がしてみたいのだろう。

「他者理解」のベースには、菌のネットワークがある。空気を読めない人は、経験だけでなく多様性のネットワークも乏しいのかもしれない。様々なことを感じ取れるアンテナ、ネットワークがあればこそ、他者を気遣うこともできる。

菌のネットワークが脳を育てる。菌のネットワークは地球規模で広がっている。
要するに、「地球」があなたを育てている。地球全体が有機的なつながりを持つ一つの巨大生命体であるとみることもできる。あなたは「地球」に育てられている。
→ だから、プラネタリーヘルスを目指さなくてはいけない。それは自分の為でもあるのだ。

○ プラネタリーヘルスを語るべき時代

今、注目されている取り組みに、「プラネタリーヘルス」という考え方がある。
地球レベルで環境と人々の健康を考える。その要となるのが「土」であると言う。人は「土と微生物」を通して自然と繋がり、地球と一体である。人と自然は切り離すことができない。環境の回復なくして、人の健康はない。

プラネタリーヘルスは、2015年に世界的に権威のある科学誌「ランセット」によって世界に広がり、国際会議「ワールドヘルスサミット」でも発表された言葉です。その概念は、人類と地球を一体と考え、人類の健康は、地球の健康とは切り離せないというもの。

健康は土づくりから。土壌環境がよくなれば人と地球の健康が回復してゆく。
人は「土」を介して自然とつながり、循環することにより地球と一体となっているのである。

〇 幸せな未来

私は今、週末に家族で畑に行く。「しあわせ農園」と言う小さな畑だ。(私は週末ファーマーです)
私が「しあわせ農園」と名付けたのは、なにか方法論を唱えたかったからではない。自然農法はすでにあちらこちらで実践されている。道はいろいろあるし、どれが正解といった画一的なものでもない。答えは「自然」自体の中にある。
私は単純に、“目的”を掲げたかったのである。ここに向かって進みたいという指針を持ちかった。人と自然をつなぎたかった。しあわせな共生の理想を求めていたのです。

もちろん、ここで言う「幸せ」とは、私個人の幸せだけではなく、みんなの幸せ、人と自然が仲良く暮らす世界。障害のある人たちも自然に過ごせる。そして、人だけではなく共に生きる虫たちや小鳥、草木、ミミズや微生物も、みんなが生き生きと喜ぶ世界。一つとなって調和する世界(しあわせな世界)を望んだので「しあわせ農園」という名にしたのです。

もし、神様がおられるとしたら、神様は「幸せ」になりたかったのだと思います。
だから、多様な生き物を創造され、生態系というネットワークでつながれ、互いに支え合って循環しながら生きるシステムを作られ、一人ぼっちでないようにされた。(神様は、さみしがり屋なのかもしれません)一つに調和する感動と喜び、これが全ての動機だったのかもしれません。

菌職人の清水真先生は、シンポジウムで「意欲が進化を生んだ」とおっしゃられました。
「水の中にいた生き物が初めて地上に這い上がる時、さぞかし息苦しかっただろう。苦しいにもかかわらず何万回も水の上に顔を出すのは、何かしらの『意欲』がなければできないことだ。」とても面白い説です。
ちょっと飛躍しますが、これを私なりに解釈しますと、(真理の奥底に)幸せになりたいという願望(=意欲)があったから、世界はこのように進化したと思うのです。「地球」と言う“奇跡の星”が誕生したのです。
幸せを望むものがいて、愛によってそれを実現しようとされたのです。

だから、私の願いはその意に沿って、多様な生き物がつながり合い一つとなって調和する、そのような世界を見てみたいのです。世界にはいろんなものがあります。でも、根源は一つであり、そこには「愛」があり、心は一つになりえる。通じ合うことができるのです。(単なる、私の仮説ですが…)

「プラネタリーヘルス」を掲げる私たちの意図は、簡単に言うと地球を救い、あなたを救い、未来を救おうとするものです。嘘のような、奇跡のような、とんでもない話のようですが、一つとなって調和し、喜び合える、幸せな世界が訪れることはありえると思うのです。プラネタリーヘルスは、やがてプラネタリーハーモニーを生み、プラネタリーハピネスに行きつくことを願っています。

福祉には目的があり、生態系にも目的があり、人生にも目的があります。
一つになって調和し、「幸せになる」ということです。
だから、多様なものを受け入れて、つながり合い、愛して、一つにならなくてはなりません。
そして共に生き、ともに幸せになるのです。

2022.5.30 俊邦父