裏の畑で・・・

♪ 裏の畑で ポチが鳴く 正直爺さん 掘ったれば
   大~判 小判が ザクザク ザックザク!!

私は3年半、とある障害者施設で勤務していました。
その施設の裏にある駐車場の横に10メートル四方にも満たない、小さな猫の額のような畑がありました。私が来た当初は、土が瘦せていて、土は砂交じりのザラメでカチカチに締まっていて、ひょろひょろと細長い畝が残されていました。

私は、畑担当ということで、支援の合間に(暇つぶしのような形で)、管理に携わっていました。
基本、畑は不耕起。畝は最初に設定して(私が太めの畝を立てました)以降、一度も崩していません。
無農薬・無化学肥料で一貫して野菜作りをはじめました。
1年目は、やはりしょぼい野菜しかできませんでした。

施設内の活動で、堆肥づくりということで、給食で残された野菜くずを、A君(Good Job!)がハサミでチョキチョキと切り、畑に戻してくれました。刈り草と共に半年ほど寝かして熟成してできた野草堆肥とコーナンで買った牛糞・鶏糞を撒いて、植え付けの前にスコップで軽くひっくり返す。それだけが土づくりでした。
草は、草生栽培ということで邪魔にならない草は放っておいて、刈った草は畝にかぶせてマルチの代わりにカバーしておりました。残渣が入っているということから、ミミズや微生物がたくさんわいてきました。草もいっぱいで、畑は青々としています。

3年目に入った今年、畑は一変しました。(土づくりには3年ですね)
土は手で掬えるくらいフカフカで、色合いも茶褐色で断然よくなりました。団粒構造も見られます。
ジャガイモ、玉ねぎ、イチゴ、トマト、ナス、ピーマン、キュウリ、ゴーヤ、スイカ、黒枝豆、里芋、サツマイモ、ニンジン、大根。10種類以上のお野菜が見事に成長し、収穫できるようになりました。
室内にこもりがちな利用者さんも、喜び勇んで外に出て収穫を楽しみました。「とったど~!」

裏の畑は、小さいですが希望に満ちた「宝物」のようなものです。
そこには(嘘のような話ですが)、環境問題や食糧、人々の健康に至るまで、たくさんのヒントが隠されています。

地球温暖化で問題視されている二酸化炭素。大気中にあるCO23分の1は元はと言うと土の中にあったものです。それを不適切な農地管理のために大気中に放出されました。農業の工業化で、木を伐り、大型農耕機械により大地をかきまわし、薬を撒いたためです。土は疲弊し、生き物はいなくなり、カーボンは抜けてゆきました。
私たちは緑を増やし、残渣を土に戻し、不耕起栽培であるということは、逆にたくさんの炭素を地中に固定しています。

また、温暖化以上に深刻な問題は生物多様性の減少です。(絶滅する生き物がたくさんいるのです)
生物の多様性の95%は、実は土の中にあると言われます。多様性は目に見えないところに潜んでいます。不耕起で草生栽培ということは、植物の根と微生物の繁殖を促しますので、畑の土の中の多様性は格段に向上してゆきます。土を少し掘ればたくさんの生き物に出会えます。畑では多種類の野菜を輪作し、緑がたくさんで、「光合成」もしっかりと行っています。二酸化炭素は間違いなく固定されて、野菜の葉や実となっています。

草で、グランドカバーしていますので、水不足にも対応しています。土が焼けることはありません。
何よりも、収穫量は3倍以上になりました。茄子もトマトも張りがあってつやつやしており、色合いもよく甘くておいしいです。なぜか3年目は虫食いも、病気もほとんどありませんでした。

有機栽培であるということは、土の中のミネラルをたくさん含み栄養価も高いです。何度も厨房で料理して頂き、給食のおかずに出してもらいました。こんな単純でお手軽な管理方法で、収量が3倍になるとするならば、食糧問題もやり方によっては解決するのでは・・・と大胆に空想してしまいます。

それにしても、土と微生物の力は偉大です。全ての生き物、野菜も人も元気にしてくれます。
健康な土の中には、ティースプーン1杯に10億を超える微生物が生きています。菌根菌は、根から滲出液をいただく代わりに、多くのミネラルや栄養素、水分を野菜たちに提供しています。地中には微生物のネットワークが張り巡らされているのです。
これからの農業は、不耕起で無農薬の有機栽培、小規模な家族農業が主流になってゆくことでしょう。

人は、自然の一部です。ですから土壌環境は、そこで育つ野菜を食する人間にも影響します。
腸内環境は土壌環境の延長線上にあります。腸内細菌は元を正せば土壌菌から来ているものです。土が元気になれば、腸内細菌の多様性も向上し。酵素による分解能力も増し、多くの栄養素が人体にもたらされます。発達に影響するのです。
免疫も向上しますし、腸で起きることは全て脳へと影響してゆきます。「腸脳相関」と言いますが。腸と脳は、腸管神経系と迷走神経でつながっています。脳はネットワークで機能します。

私は、はじめ自閉症についてネットで調べていたら、脳の障害であるにもかかわらず腸の話しがたくさん出てきたので不思議に思いました。でもやがて、なるほどと思うようになりました。
進化の過程を見ると、元々脳は腸から派生したものであり。腸は脳の親なのです。(腸は第一の脳だと言える)NHKのヒューマニエンスQと言う番組で織田裕二さんもそう言っていましたね。だから、1000億の脳の神経細胞をつなぐ神経伝達物質のほとんどは腸において腸内細菌の働きによって作られているのです。腸が脳に影響を与えるのは当たり前のことなのです。特にメンタルにおいてはダイレクトに影響します。

私たちの腸内環境は、農薬や化学物質によってダメージを受けています。特に自閉症の方は腸内細菌の多様性が低く、偏っているという共通点があります。次世代シーケンサーを使って、腸内細菌叢を遺伝子解析すればそのことが分かります。
近年、栄養療法と共に腸内フローラを移植する(便微生物移植)という治療方法で、「自閉症」の症状が目覚ましく改善してゆくという報告があります。(それも、生物学的な仕組みを知ればうなずけることです)

腸内細菌がどのように人に働くか、たとえば、腸内細菌によってもたらされるトリプトファンと言う必須アミノ酸は、ビタミンB6と合わせて、「幸せ物質」と呼ばれているセロトニン(神経伝達物質)の材料になります。幸せは腸から(元を正せば畑から)やってくるのです。セロトニンは神経細胞のシナプス間を行き交い、ニューラルネットワークを築いて、自閉症の子にも、緊張感をほぐして穏やかで平和な気持ちをもたらすでしょう。

セロトニンは、睡眠導入ホルモンであるメラトニンにも変化しますので。それが増えるということは、昼夜逆転してなかなか眠れない子にも穏やかに効くことでしょう。朝日を浴びて、「腸活」を行い、セロトニンを増やせばいいのです。

意外なことかもしれませんが、食の嗜好は腸内細菌が決めていると言われています。腸内細菌叢が多様になれば偏食は少なくなってゆきます。菌がもたらす酵素によって、分解能力が増すのでおいしく食べられるようになるのです(菌の第一の仕事は分解です、デトックス作用もあります)。そして免疫力が向上すればウイルス感染も重症化せず、アトピーやアレルギーも軽減します。お肌も綺麗になり、肥満もなくなります。腸内細菌のもたらすメリットは、上げるときりがないくらいあります。

ここまでお話しすると、私の伝えたいことはなんとなくお分かりいただけるでしょう。
世界の表土の3分の1はすでに劣化していて、現状のまま推移すればあと60年以内に残りの土壌も完全に劣化してしまうと国連は予想しています。(食糧危機は目の前です)

地球上に残された最大にして、唯一の二酸化炭素の隔離先は土壌だし、経費もかけずに、かつ、安全に二酸化炭素を大気中から除去する方法は、光合成とそれに続く土壌への自然なカーボンの貯留しかない。
「だから、私が見る最後の大きな希望は土壌と微生物だ」とデビッド・ジョンソン博士は言われます。
もちろん、増え続けている自閉症・発達障害の治療や根本的な解決においても同じことが言えるでしょう。

2030年は一つの大きな分岐点です。あと7年しかありません・・・
だから、裏の畑でポチが泣いているのです。
今年、畑の前のプランターには、平和を祈ってウクライナの国花であるヒマワリの種を撒きました。

ヒマワリが咲く中での卒業です。(私も今年で還暦です)さあ、前に進みましょう。

2022.7.16 俊邦父