私たちは共に進化する

「共進化」、微生物は共に進化してきたパートナーである

人との関係を学ぶことは大切である。
特に、「対人サービス」である福祉の現場では、利用者さんの気持ちを大切にして関係性を築くことが良い支援につながる。これは障害者に限らず、人間であれば誰しも人間関係で悩み、円満なその解決を求める。社会に生きる者たちの宿命と言ってもいいようなことである。

福祉の学校では「心理学」を多く学んでいるようだ。
精神論、気持ち、関係性・・・・
しかし、どれだけ多くの親や本人、現場の支援者(担当者)たちがこれに苦しみ、離職や離婚、DV、自殺に至るまで、追い込まれて行ったことだろう。「冷蔵庫マザー」(冷たい、愛がない、接し方が悪い)と評されて苦しむのは、遠い過去の話しではない。関係性を築くことに失敗する親や担当者は今もたくさんいる。
また、関係が築けたから自閉症が治ったというわけでもないのだ。

心理学だけでは解決しないことも多くあるのである。
「自閉症」は脳の器質的な障害であり、精神的な問題ではなく、「心因説」はすでに否定されている。根底には生体における問題、生物学的なところに課題がある。でも、日本人は精神論に傾きやすい。(そういう民族的な体質である)
福祉は対人サービス。だから心理学に偏ってゆく。それ以外は専門外としてあえて目を背ける。医療・福祉の学校で学ぶことは限られていて、狭い。狭いがゆえに的外れだと行き詰ってしまう。いつまでも、寝ぼけたことを言っていてはいけないのだ。

我が家を例にとってみると、私たちは夫婦仲が特に悪いということはない。親子関係もいい方だと思う。いつも仲良く食卓を囲むし、週末にはそろって遊びに行く。子供に対しては「子煩悩」と言っていいほど大切にしてきた。しかし、それでも自閉症は自閉症なのである。

自閉症の謎を探るために、少し違った視点から物事を考えてみよう。

■ 生物学

ヒトは「生き物」である。
だから、根本である『生物学』から考えてみよう。

20世紀後半、生物学は大きく変わった。1953年、クリックとワトソンがDNAの二重螺旋構造を発見し、生命の根幹を明らかにした。遺伝子の構造、塩基配列からアミノ酸配列、タンパク質の合成など、遺伝子の発現、セントラル・ドグマ(生命の根本原理)と呼ばれるものを発表した。人体というものが、どういう素材によって、どうゆう経路で作られ、また、どう遺伝してゆくのかその仕組みがわかるようになった。これは革命的な発見であった。

生命の基本構造はタンパク質によってできている。タンパク質は20種類のアミノ酸の組み合わせによって合成される。その配列を決めるのはDNAの塩基対である。30億ある二重螺旋のステップから、2万1千個の遺伝子の情報が設計図として、ヒトの構造を決定している。

以後、この学問は「分子生物学」として広まってゆく。生命について語るとき、必ずDNAを考慮に入れなくてはならない。

■ 栄養学

ヒトの体は栄養によってできている。
この「栄養」について、分子生物学的に解釈してゆく、分子レベルで、DNAの要求する人間にとって必要な栄養素を補給する。これが「分子栄養学」、あるいは「オーソモレキュラー」(分子整合栄養医学)というものである。カロリーベースで平均的に物事を考える従来の栄養学とは異なり、なぜ必要なのか?何が足らないのか?分子レベルで根本的に(生物学的に)追及しているところが新しい。

医学の父ヒポクラテスは、「人は身体の中に100人の名医を持っている。」「汝の食事を薬とし、汝の薬は食事とせよ」言った。(食事療法の始まりである)人間にとって必要な医療は、まず適切な栄養をとることなのだ。
特に、自閉症(発達障害)について考える場合、脳に必要な栄養素というものを、速やかに補給することが症状の改善につながる。(人間関係ではなく、ベースとなる生体的な意味で改善するのである)

人間の脳にある1000億個を超えるニューロン(神経細胞)、シナプス結合によって繰り広げられる脳神経回路網(ニューロンネットワーク)の形成、そしてメッセージを伝達する神経伝達物質の産生。それらの事柄に、栄養素は大きく影響する。だから、タンパク質を摂り、ビタミンやミネラル、必須脂肪酸を補給する。
※ 特に、プロテイン、ビタミンB群、鉄、DHAなどは重要である。

DNAの二重らせん構造の発見から50周年となる2003年、生物学の一大プロジェクト「ヒトゲノム計画」により、ヒトのDNAに含まれる30億個の塩基対全てが解読された。遺伝情報の解析により、病気や障害の原因究明につながるとみられ、自閉症の原因となる遺伝子が発見されるかと注目されたが、関連する要素は見つかったが、決定的な一因子は無かった。

ここで、研究者たちの予想を大きく覆した事実がある。(彼らはバーで賭けをしていた)
ヒトの遺伝子の数である。人間は進化の最高峰にある高等生物である。だから、遺伝子も複雑で他のどんな生き物より多いだろうと思われていた。しかし、見つかったタンパク質コード遺伝子は2万1千個だけだった。これは、線虫と同じレベルであり、イネやミジンコよりも少ない。ヒトの高等生物としてのプライドは丸つぶれである。

ただ、研究はそこでは終わらなかった。

研究者たちが目を向けたのは腸内細菌叢(腸内フローラ)である。ヒトマイクロバイオームに関心が移行していった。ヒトの腸の中には数100兆個の細菌が棲む。人間の細胞が37兆としたら、3〜10倍近くの生き物が体内にいる。その一つ一つの菌の細胞の中には遺伝子がある。その遺伝子の数を合わせると330万個、ヒトの遺伝子の150倍にあたる。

研究者たちのヒトを見る目が変わった。ヒトを一つの生き物としてみるのではなく、「生命の集合体」として見るようになったのである。ヒトの中で生きる100兆を超える生き物(細菌)、みんな合わせて「人」なのである。彼らの遺伝情報も人に影響を与えている。

■ 微生物学

「ヒトマイクロバイオーム・プロジェクト」が始まった。
腸内細菌叢(腸内フローラ)は、今、最先端の医療、研究分野のターゲットである。
ヒトの進化の謎はここに隠されているかもしれない。

ヒトは多くの生命活動を、自分で行うのではなく、体内にいる微生物にアウトソーシングし、共に生きることで、共に進化するという道を選んだ。むやみに遺伝子を増やすのではなく、微生物と連携する方が環境に適応しやすく、進化の速度が増す(手っ取り早い)からである。自然の中で生きるということはそういうことなのだ。

人は微生物によって補完されている。
神の創造に『人類補完計画』なるものがあるとするならば、(アニメに出てくるセリフのようですね)
微生物との共進化の中で進められていたのであり、ヒトのDNA(遺伝子)の不足分を腸内細菌の遺伝子で補っていたのである。

自閉症の子供たちは、腸にトラブルを持つ子が多い。
カンジダ菌が異常繁殖していたり、グルテン・カゼインにアレルギーを持っていたり(牛乳と小麦に対するアレルギー)、腸の粘膜層が弱く、リーキーガット症状を起こし、有害物質が脳に達することもある。

「脳腸相関」という言葉があるが、腸内細菌は脳の神経細胞、「心」にも影響を与える。
腸は「第二の脳」と呼ばれているし、腸にはたくさんの神経細胞(ニューロン)がある。脳という臓器はもともと腸から派生した臓器なのである。脳のない動物はいても、腸のない動物はいない。

自閉症の子供は腸内細菌(腸内フローラ)の多様性が低い。それが様々な脳の機能に影響を与えている。
自閉症の原因はディスバイオシスにあるという学者もいる。

■ 遺伝学(母親からのプレゼント)

遺伝は、精子と卵子の出会いによって、ヒト遺伝子(DNA)が組み合わされ両親の特性が引き継がれる。しかし、遺伝とはどうやらそんな単純なものではない。

「出産」は神聖なる遺伝の儀式のようなものである。母親の体内にある微生物の数百万の遺伝子は、出産で胎児が膣を通過する際に引き継がれる。母乳の中にも菌は含まれる。生みの苦しみは、「遺伝」の苦しみでもある。それらはすべて子供へのギフトとなる。だから、出産は帝王切開ではなく自然分娩、粉ミルクではなく母乳育児の方が良い。やむを得ない場合は、膣内をガーゼでぬぐって新生児の口や体に塗り付ける方法を採用しよう。(なるべく自然に近い状態にする)

生後3年間で赤ちゃんの腸内細菌叢は、ほぼ決定してしまう。(微生物を含めてすべての遺伝が完了するということ)引き継いだ腸内細菌は生涯のパートナーとなる。

私は体内にいる微生物を含めて、「私」となる。

今の世の中は、微生物にとって厳しい逆境の世の中である。菌は悪者とされ、除菌・殺菌の嵐が吹き荒れている。特に日本人は神経質なくらいに菌を遠ざけている。

体内にいる腸内細菌にとって、大惨事を引き起こすのが「抗生物質」である。
抗生物質は、「奇跡の薬」として感染症から多くの命を救った。しかし、体内に棲む菌にとっては、原子爆弾を落とされるようなものだという。多くの菌が死に絶える。抗生物質によって、自閉症が悪化するという話は、よく聞く話である。
人は、ヒトの一部である菌と、その遺伝子を失っているのである。それは、知らず知らずのうちに症状としてあらわれる。それが「21世紀病」だという。

■ 土壌学

ディスバイオシス(腸内細菌のバランスの乱れ)から救出する方法が考案されつつある。
様々なプロバイオティクスが試されたり、発酵食品を食べたり、もっと直接的に「便微生物移植」(便移植)を行うこともある。耐性菌によって、抗生物質が効かなくなった難病に、便移植が効果を発揮するケースもある。(クロストリジウム・ディフシル感染症)

自閉症の原因の一つであるとされるリーキーガット(腸漏れ症候群)の治療に一番効果があるのは、「土壌菌」であると言われている。SBOカプセル(土壌菌サプリメント)が考案されている。腸内細菌の多様性を復元するのだ。腸内環境が整わなければ、栄養療法は効果を発揮できない。栄養に偏りがあると発達に障害が生じたとしてもおかしくない。

私たちは「土」に返らなければならない。
腸内細菌は、元を正せば「土壌菌」であると言われている。
赤ちゃんは土に触れ、指をなめて菌を取り込んでいる。健康な赤ちゃんは普通、毎日小さじ一杯の土を食べているというデータがある。土の中には何千種類という菌がいる。

しかし、悲しいかな、今都会の地面はコンクリートとアスファルトに覆われている。地方の農場に行っても土は化学肥料と農薬によって汚染されており、生物の多様性は危機的な状況である。人間の都合に合わせた品種改良や遺伝子組み換えが行われ、虫や菌を極度に嫌い、まったく土を使わない「水耕栽培」なんかがもてはやされたりする。有機栽培の野菜は0.5%しかない。
家畜に与えられている飼料には抗生物質が混ぜられている。健全な自然の草を食べて放牧されている家畜は少ない。そして、水道の水には残留農薬と菌を殺す塩素が含まれている。ヒトの細胞には直接的に影響がないにしても、ヒトの一部である常在菌・腸内細菌においては多大な影響がある。

アレルギーや発達障害に苦しむ当事者や親御さんたちは、自ら動き出し、自然の中へと回帰してゆこうとされている。(そんな人たちもいる)

■ 自然農法

生態系の基盤は「土」にある。
土づくりは大切なことだ。1pの土壌を形成するのに自然の循環にまかせると数百年かかるという。
しかし、生命を育むのに安易なショートカットはない。(ホームセンターで改良剤を購入すればいいというものではない。)私たちは、大地に根差し、ゆっくりと着実に成長してゆかねばならない。

自然農法の詳細については、別の稿でお話しすることにして、ここでは「土づくり」と腸内フローラを整えることはよく似ているということをお伝えしたい。どちらも「自然」であるがゆえに、多様で活発な生態系の循環が必要であるということ。その一番の鍵を握っているのが微生物であるということである。

植物には根がある。根の周りには多くの菌がいて養分のやり取りを行い共生している。有機物を分解したり、窒素を固定したりして、栄養素を提供しているのは菌(微生物)である。日々、せっせと土づくりを行っているミミズの腸内には素晴らしい能力を持つ細菌がいて、腐敗したものや汚染された物質を無毒化して、フカフカの土へと変えてゆく。

人間の腸も、「おなか畑」と呼ばれるくらい、畑に似ていて腸のひだひだ(腸絨毛)と粘膜層が根っ子の代わりに、腸内細菌と協力しながら食べ物を分解し、栄養素を吸収している。代謝や免疫機能の多くは、腸の中にいる細菌の働きにかかっている。彼らの能力、微生物のDNAあっての人間なのである。それが発達につながっている。

畑の中で「菌活」しよう! 健康な土に触れ、無農薬の有機野菜を食べ、土壌菌や食物繊維を取り込み、自然の生態系の中に自分も入る。自然の仲間入りをして腸内細菌の喜ぶ生活をしよう。
ヒポクラテスは「人は自然から遠ざかるほど病気に近づく」と言う。だったら私たちはその逆を行き、自然に回帰してゆくことにより、(自然治癒力により)本来の健康を取り戻してゆこう。

福祉の人たちにこれらの話をしてもポカンとした顔をして、人ごとのように聞いている。しかし、これらのことを理解して頂かないと、私の腹の虫(菌)がおさまらない。笑

■ 地球環境

地球環境問題で、今大きく取り沙汰されているのが、「地球温暖化」の問題と、「生物多様性」の崩壊についてである。二酸化炭素を吸収するのは、光合成をおこなう植物なのだから、土壌を保護して、微生物と植物を大切にし、生態系の循環を活発にするしかない。森林や草原、農地による二酸化炭素の吸収と固定が大事なのである。

そして生物多様性の問題。多くの生き物が人間による活動、自然破壊、化学物質の氾濫、農薬の影響で生息数が減り、絶滅の危機に瀕しているものもある。戦後「緑の革命」と称して行われた、農業の工業化、大型機械による大量生産、農薬・化学肥料の多用、過度な品種改良と産地ごとの均一化(モノカルチャー)。レーチェル・カーソンが「沈黙の春」で警告したように、小鳥たちや虫たちの鳴き声は聞こえなくなってきた。生物種の絶滅は加速している。

地球環境の問題は、人間が引き起こしていることなので、人が自然と調和して、生物の多様性の維持と生態系の循環がうまくいけばすべて解決するのである。

ここで一つお伝えしたいのは、「自然」には外にある自然環境と、ヒトの内にある自然(体内の生態系)がある。すなわち腸内フローラとの関係も守るべき「自然」なのである。外の世界で、絶滅の危機が叫ばれているのと同様、内なる自然においても微生物たちの生息数、腸内細菌の多様性が減少してきている。地球の危機と同様、人間も危機的状況なのである。21世紀病と呼ばれる病気や障害は、益々増加傾向にある。

抗生物質の発明により、人の寿命は倍に伸びた。しかし、菌は人間以上に適応力があり進化の速度が速い。「耐性菌」が蔓延して抗生物質が効かなくなったら・・・人の命はどうなってゆくのだろう。
マーティン・ブレイザーは「抗生物質の冬」が来ると言われる。

今、多くの学者たちが、「便」の研究をしている。
腸内細菌はヒトの命を支えるものなのである。特に人の文明に汚染されていない、未開地の原住民の腸内細菌は貴重だ。他では見ることのできない絶滅危惧種が含まれている。その中にはキーストーンとなる菌もいる。原生林の土の中も同じである。そのような菌はダイヤモンドよりも貴重である。

人と細菌は、長い歴史を通じて共生し、共に進化してきた。
特に細菌の進化の歴史はすごい。そのポテンシャルは計り知れない。38億年の歴史がDNAに刻まれている。「地球カレンダー」の、大みそかの最後の23分にちょこちょこっと出てきた人間の浅知恵とは違うのである。産業革命をおこして自然を破壊していったのはわずか2秒の出来事である。(地球の歴史を1年とした場合の人の文明の時間)

私たちは傲慢に、人間の科学の力で細菌を抑え込み、地球を征服しようなどという馬鹿なことを考えずに、「生命の集合体」である人間は、共生する細菌と共に進化し、生き物すべての総力戦でこの危機を乗り越えてゆくべきである。地球の歴史は、単独の生き物の力ではなく、「共進化」によって今まできたのであり、これからもそうやって歴史を刻んでゆくだろう。

以上、自閉症について語ろうとしたら、こうゆうことになりました。
でも全くつながりのない、不思議な話ではないはずです。「福祉」(人を幸せにする)仕事をしようと、志している人たちは、心理だけでなく、少なくともこれくらいのことは常識として理解したうえで、日々の業務に取り組んでいただきたいと思います。

きっと何か違うものを見つけ、新しい道が開けてゆくことでしょう。

2020.7.1 俊邦父


注意事項帝王切開や授乳については、状況によってさまざまな判断が考えられるし、衛生面においても、医師やご夫婦の間にもお考えがあることでしょう。ですから、この話は一人の意見としてこういう見方もあるのだと参考にしていただければそれでいいと思います。(強制するつもりは全くありません)
また、土壌菌についても、その全てが解明されているわけではありませんので、良い菌もあれば病原菌もいます。何を取り入れるかの判断は、本人の自己責任でお願いします。
ただ今後、障害について学ぼうとされる人の進むべき方向性やアウトラインとして、自然との共生に答えを見つけようとするのは正しいことではないかと思い、なにかしらヒントになればと記載した次第です。
新たに大きな展開や希望が見いだされることを心から願っております。

 参考・引用させていただいた書籍です。

「失われてゆく、我々の内なる細菌」  マーティン・J・ブレイザー

「腸と脳」  エムラン・メイヤー

「土と内臓」 微生物が作る世界  D・モントゴメリー